刑事手続にかかわる人たち

被疑者・被告人
犯罪があったと思われるときに、犯人を捜し出して証拠を集めることを「捜査」といいます。捜査を行う者(捜査機関)によって犯人ではないかと疑われている人を被疑者(ひぎしゃ)といいます。TVなどのメディアで「容疑者」と呼ばれている者のことを、法律上では「被疑者」と呼んでいます。
捜査機関が被疑者を逮捕すると、やがて検察官に引き渡します。そして、被疑者の犯罪の疑いが晴れなければ、検察官の判断によって、被疑者の処罰を求めて裁判所に対して訴訟を起こす(起訴する)ことになります。こうして検察官によって公訴を提起された被疑者を、被告人(ひこくにん)といいます。つまり、起訴後の被疑者は被告人となります。
被疑者および被告人というと、その人が犯人に違いない、犯人に決まっていると思ってしまいがちですが、逮捕されたり起訴されたりしたからといって本当に犯人であるかは分かりません。その人が本当に犯人であるかどうかは、裁判所による裁判を経て明らかにされることです。そのため、誰であっても、有罪の判決が確定するまでは無罪であるというべきであり、実務上もそのように推定することになっています。これを無罪推定の原則といい、刑事法の基本原則のうちのひとつです。憲法31条において「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又その他の刑罰を科せられない」と定められており、これも無罪推定の原則の根拠となると解釈されています。
弁護人
刑事手続において、被疑者・被告人の主張を代弁し、その権利を守る弁護士を弁護人(べんごにん)といいます。弁護人は、被告人を助ける役として、弁護士の中から選任されます。弁護人は、被疑者・被告人の権利を守るために、法律の専門家として被疑者・被告人の法律知識の不足を補ってアドバイスをします。また、被告人が自分では集められない証拠を収集するなど、被疑者・被告人のための活動をします。その他の活動の例としては、刑事裁判に立ち会ったり、被告人のために意見を述べたり、アリバイや情状などの立証活動を行ったりします。
被疑者・被告人の多くは法律知識のない素人ですし、もし法律知識があったとしても、自分が裁かれる立場では客観的な判断をすることが困難となります。そのため、客観的で法律の専門知識を持っている助っ人として、弁護人が必要となってきます。軽微な事件の場合は弁護人がいなくても裁判手続を進めることができますが、法律で定められた刑(法定刑)が死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たるような軽微とはいえない事件では、弁護人が出頭しなければ裁判所は審理をすることができないことになっています。これを必要的弁護事件といいます。また一定の場合には、弁護人は被疑者・被告人の意思に反しても行うことのできる強力な代理権も持っています。例えば保釈の請求などです。被疑者・被告人が冷静な判断をできなくなってしまい、かえって自分に不利益な意思を表示してしまうことを防ぐため、このような権限が弁護人に与えられています。
また、弁護人は弁護士として基本的人権を擁護し、社会正義を実現するという使命を負っており、これに基づいて誠実に職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力する義務があります(弁護士法1条)。そのため、被疑者・被告人のためであれば法律や正義に違反してもいいというわけではありません。依頼者の逃亡を手助けする行為や、証拠を壊したり隠したりする行為は、どれも法律に違反する行為ですから、たとえ被疑者・被告人のたっての希望であっても、応えることはできません。このように、場合によっては、被疑者・被告人の希望と弁護人の正義が対立してしまうこともあります。
いずれにしても、弁護人は刑事手続における被疑者・被告人の絶対の味方であるといえます。周りが被疑者・被告人の有罪を疑っていようとも、本人が無罪であると訴えていれば、最後まで本人を信じ味方であり続けます。弁護人は、法律の専門家として、被疑者・被告人のために活動することを使命としているのです。
警察官
犯罪があると思われるときに犯人及び証拠の捜査を行うという犯罪捜査の責務を負い、捜査によって集めた証拠を事件とともに検察官に送致する人を警察官(けいさつかん)といいます。刑事訴訟法上、警察官は司法警察職員と呼ばれます。
警察官は、犯罪が行われた場合の第一次捜査機関ということができます。また、警察官は、犯人を見つけ出して証拠を集めるという目標のもとに、検察官と互いに協力しています。警察官は検察官から捜査に関し指揮や指示を受けることもあります。
検察官
犯罪の捜査及び公訴の提起をし、公判に立ち会い、公訴を維持し、刑が確定した場合にはその執行を指揮する人のことを検察官(けんさつかん)といいます。検察官は、警察官に続く第二次捜査機関ということができます。
検察官は、公益の代表者として、刑事事件に関してはその始まりから終わりまで広い職責を担っています。
被疑者との関係では、警察官から被疑者の送致を受け(一般的に「送検」と呼ばれています)、被疑者を取り調べます。そして、被疑者について公訴提起をするかしないか、つまり起訴か不起訴かを決定します。起訴とは、犯人の処罰を求めて訴訟を起こすことです。日本においては、検察官のみが起訴をすることができます。これを「国家訴追主義」「控訴独占主義」と呼んでいます。
また、検察官は、捜査の結果、被疑者が犯人であることを立証するような十分な証拠がある場合でも、犯罪の重さや犯人の性格、年齢などを考慮して、あえて起訴する必要がないと考えるときは、起訴しないこともできます。これは日本における刑事訴訟の大きな特徴です。他の国の中には、証拠が集まった場合には必ず起訴しなければならない制度を採用している国もあります。
起訴した場合、検察官は法廷で、集めた証拠をもとに被告人が犯人であるとの主張・立証を行います。法廷では、弁護人の席と向かい合う形で座ります。
裁判所と裁判官
刑事裁判において、判断をするのは「裁判所」と「裁判官」です。ここでいう裁判所(さいばんしょ)とは建物のことではなく、刑事事件を審理してその結論を出す機関のことです。つまり、法廷で被告人、弁護人、検察官の意見を聞き、証拠を見聞きして事実を認定し、有罪か無罪かを決定して判決をいいわたす機関です。この裁判所は裁判官によって構成されています。裁判所を構成するメンバーの長で、訴訟進行を主宰する権限を持っている人を裁判長(さいばんちょう)といい、裁判を複数の裁判官で審理する場合は、裁判長が真ん中の席に座ります。
これに対し、捜査段階や公訴提起後の第1回公判前に勾留や保釈の裁判をする人を裁判官(さいばんかん)といいます。具体的には、警察官から請求された被疑者についての逮捕捜索令状を発したり、検察官が請求した被疑者の勾留請求について判断をし、勾留状を発したりしますが、これらひとつひとつの判断のことも裁判と呼びます。広い意味での裁判には、判決・決定・命令が含まれるのです。
裁判員
平成21年5月21日から裁判員制度が実施されます。刑事裁判の一定の重大事件において、法廷で被告人、弁護人、検察官の意見を聞き、証拠を見聞きして事実を認定し、裁判官と一緒に被告人が有罪か無罪かを判断し、有罪の場合には刑の重さを議論して、判決の内容を決める人を裁判員(さいばんいん)といいます。裁判員制度の対象となる一定の重大事件の代表的なものとしては、
・人を殺してしまった事件(殺人)
・強盗が人にけがをさせ、あるいは死亡させてしまった事件(強盗致死傷)
・人にけがをさせ死亡させてしまった事件(傷害致死)
・泥酔して自動車を運転し、人を死亡させてしまった事件(危険運転致死)
・人の住んでいる家に放火をした事件(現住建造物等放火)
・身の代金を取る目的で人を誘拐した事件(身の代金目的誘拐)
・子供に食事を与えないで放置したために死亡させてしまった事件(保護責任者遺棄致死)
などがあります。
原則として、裁判員6人と裁判官3人が一緒に刑事裁判の審理に出席して、証拠調べ手続や弁論手続に立ち会った上で、評議を行って判決を宣告します。裁判員は、一般の市民の中から無作為に抽選で選ばれます。
国民が裁判員として刑事裁判に参加することにより、裁判が身近で分かりやすいものとなり、刑事司法に対する国民の信頼が向上することが期待されています。
刑事手続の全体像

捜査:警察官や検察官が犯罪を捜査して、裁判所に提出する証拠を集めます。
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起訴:検察官が事件を起訴します。刑事裁判は、検察官の起訴によってスタートします。
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公判:検察官が起訴した事実について証拠調べを行い、その存否を確定します。
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冒頭手続:被告人の名前などを確認しながら、検察官が起訴状を読み、被告人や弁護人が意見を言います。
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証拠調べ:起訴状に書かれた事実があったかどうかを判断する材料になる証人や書類などを調べます。
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論告求刑:証拠調べの結果に基づいて、検察官が最終的な主張を述べます。
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弁論:証拠調べの結果に基づいて、弁護人が最終的な主張を述べます。
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最終陳述:被告人が最終的な主張を述べます。 |
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判決:裁判官が法廷で判決を言い渡します。
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不服申立て:判決の内容に不服がある場合は、判決言い渡しの日から14日以内に控訴することができます。

(※法務省刑事局より抜粋) |