|
逮捕された被疑者が、警察官から検察官に送致され、さらに取調べを受けて、制限時間以内に勾留請求に至ることまでを、逮捕から勾留のながれの中でお話ししました。このページでは、逮捕された被疑者が、検察官によって勾留され、起訴されるまでをご説明いたします。
勾留に至る大まかな流れとしては、送致を受けた検察官が裁判官に対し被疑者の勾留請求をし、裁判官による勾留質問を経て、勾留状が発布されます。そして、勾留が執行されると、原則として10日間(やむを得ない場合はさらに10日間以内)勾留されます。
勾留の手続き

検察官から勾留の請求を受けた裁判官は、検察官の提出した資料を検討し、刑事訴訟法に規定された要件を満たしているかどうかを判断します。提出される資料は原則として、逮捕が逮捕状によるときはその逮捕請求書ならびに逮捕状と、勾留の理由があることを記載した調書その他の書類です。
勾留の要件
勾留の要件は、@勾留請求の手続きが適法であること、A勾留の理由があること、B勾留の必要があること、の3点です。
まず、@勾留請求の手続きの適法性については、裁判所は、逮捕時間の制限などの法律の規定に違反していないかをチェックします。勾留に先行している逮捕手続きに違法性があった場合、勾留を継続することが違法状態の継続となってしまうことが考えられるためです。また、被疑者の勾留請求をするには、まず同一事実について被疑者の逮捕がなくてはならないという、逮捕前置主義(たいほぜんちしゅぎ)があります。これは、被疑者の身柄拘束に対して司法の抑制をかける趣旨で設けられている主義です。ですから、逮捕なくして勾留請求をすることも認められません。
次に、A勾留の理由があることが必要となります。勾留の理由とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることおよび、下記の刑訴法60条1項各号いずれかの要件を満たすことをいいます。
第1号 被疑者が定まった住居を有しないとき
第2号 被疑者が証拠などを隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
第3号 被疑者が逃亡し、または逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
第1号の住居不定には、たとえ客観的には被疑者に定まった住居があるとしても、被疑者が氏名・住居を黙秘するために、裁判所・検察官がその住居を認知できない場合も含まれます。
第2号の罪証隠滅のおそれは、被疑者が犯行を自白していても、関係者・参考人の証言に影響力を与える行動をとる場合があることから、被疑者が起こしたと疑われている事件の内容、犯行の態様なども併せて検討されます。
第3号の逃亡のおそれには、居所を転々と変え、裁判所への出頭の確保が困難な場合も含まれます。ただし一定の軽い罪の場合には、被疑者が住居不定である場合しか勾留できません。
最後の要件は、B勾留の必要があることです。勾留の必要性とは、事案の軽重、被疑者の年齢、被疑者の体調など、全ての事情から総合的に判断して、勾留が相当であるといえるような場合のことです。その場合には、勾留の必要性があるといえます。
以上のとおり、勾留の要件@ABを全て満たしていないと、勾留請求は認められません。
勾留質問
また、裁判官は、勾留について判断する前に、被疑者に対し被疑事件を告げ、これに関する陳述を聞かなければならないことになっています。被疑事実について本当にやったのかどうか、何か言い分があるのかを質問するのです。この質問を勾留質問(こうりゅうしつもん)といいます。勾留質問は、被疑者に勾留される前の段階で弁解の機会を与えるための手続です。勾留質問の内容は、裁判所書記官が「勾留質問調書」に記載します。そして、その内容を書記官が被疑者に読み上げ、被疑者は間違いがないか確認し、署名押印します。
裁判官の判断
裁判所は、勾留質問をした後に、勾留の要件が満たされているときは、速やかに勾留状(こうりゅうじょう)を発しなくてはなりません。ただし、勾留の理由がないと認めるときや、逮捕の時間制限の不遵守がありその点について免責が認められない場合はそもそも勾留をすることが許されない場合ですから、その場合は勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければなりません(刑訴法207条第4項)。
勾留状は、裁判官が検察官のした勾留請求を認めることを内容とする裁判書(さいばんがき)ですから、勾留状を発した場合、検察官に渡されます。そして、検察官の指揮のもとに検察事務官や司法警察職員などが勾留を執行します。勾留の執行としては、勾留状を被疑者に呈示して、被疑者を指定された監獄に引致します。
勾留の場所、期間

-
場所
勾留の場所は、警察署の留置場または拘置所です。逮捕はほとんど警察によってされますから、警察の留置場を勾留の場所としていることがほとんどです。このことに対しては、被疑者を警察で勾留することは、精神的に自白を強要することにつながるとして、拘置所で勾留するべきであると反対する意見もあります。しかし拘置所の数が警察の留置場の数の10分の1よりも少ないため、被疑者勾留を拘置所で行うというのは現実的とはいえないのが現状のようです。また、警察の取調室で取り調べが行われるのですから、勾留が留置場においてなされていれば、被疑者を素早く勾留されている場所から取調室へ移動させることが出来、戻すのも短時間で済むため、移動に無駄な時間が生じません。そのため、自白の強要が生じないように配慮をしつつ、被疑者の勾留はこれまで通り警察の留置場で行われていくと考えられます。
-
期間
検察官は、被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から10日以内に公訴を提起しない時は、直ちに被疑者を釈放しなくてはなりません(208条第1項)。ただし、やむを得ない事由があるときは、検察官は裁判官に勾留の期間の延長を請求することが出来ます。やむを得ない事由があるときとは、事件の内容が複雑な場合や、事件に関与している人間の人数が多く、取り調べ自体に多くの時間が必要とされるような場合など、10日間の勾留では起訴するかしないかを決定することが難しい場合です。期間の延長は、原則の10日間にくわえ、さらに10日を超えない範囲で認められます(第2項)。勾留延長請求が認められない場合は、検察官は原則通り10日以内に起訴するかしないかを決定しなくてはなりません。
つまり、被疑者の勾留期間は原則として勾留の請求をした日から10日間、やむを得ない事由があればさらに10日以内の範囲で勾留が延長されることになります。
また、内乱に関する罪、外患に関する罪、国交に関する罪および騒乱罪に関しては、検察官の請求によりさらに5日以内で期間を延長することができます。これらの罪は、特に捜査の困難が予想される事件のため、例外的に再延長が認められています。内乱罪と騒乱罪は集団犯罪であり、被疑者が多数にのぼることが予想されますし、外観罪と国交に関する罪は国際関係を伴いますから、特に捜査の困難が予想されるわけです。しかしこれらの罪は刑事事件の全体からするとわずかです。重要なのは、捜査機関によって逮捕されると、起訴前の身柄拘束としては、最も長い場合は23日間の身柄拘束(=逮捕から検察官送致までの48時間+検察官が勾留請求を決めるまでの24時間+勾留決定がされた場合の10日間+勾留延長がされた場合の10日間)が法律上認められているという事実です。
初日不算入の原則の例外
ちなみに、刑訴法における期間の計算については、時間で計算するもの(例えば逮捕の時から勾留請求までの時間制限)については、即時からこれを起算し、日、月、または年で計算するものは、初日を算入しないという決まりがあります(55条)。ところが、この勾留の期間については、被疑者の利益のために、初日も算入することになっています。10日間に被疑者が勾留された初日を算入すれば、1日でも被疑者の勾留を短く計算することができるので、そのような配慮がなされているのです。
被疑者勾留から被告人勾留へ
被疑者の勾留期間内に公訴の提起があると、被疑者は被告人になりますから、被疑者に対する勾留はそのまま被告人に対する勾留に自動的に切り替わります。そして、被告人の勾留の期間は、公訴の提起があった日から2ヶ月と定められていますから、その期間が進行していくことになります。また、特に継続の必要がある場合においては1ヶ月ごとに勾留の期間を更新していきます(60条第3項)。起訴後の勾留について詳しくは後述します。
勾留の取消
また、勾留の執行がなされたとしても、勾留中に被疑者の勾留の理由や必要などの勾留の要件がなくなった場合には、被疑者や弁護人は勾留の取消を請求することができます。検察官は、勾留の理由や必要がなくなったと判断した場合は、裁判官の許可などなくても、自らの判断で被疑者を釈放することができるし、しなくてはなりません。この場合、被疑者は勾留されなくてよいのに勾留されていることになりますから、そのような被疑者は、一刻も早く身柄の拘束を解く必要があるのです。
|
| |
留置場ってどんなところ?
留置場とは、警察署の中にある勾留施設のことで、各警察署の2階や3階にある場合が多く、留置管理係がその管理、運営を行っています。留置場では、3、4人が一組となって一つの部屋で共同生活をすることが多く、特別の事情がある場合に限り、一人部屋が認められます。取調べがない日は、部屋で本を読んだり、お菓子を買って食べることができます。 |
 |
| |
|
起訴されるとどうなる?

前述しましたように、勾留の期限が切れる前に、検察官はその被疑者を起訴するかしないかを決めなくてはなりません。起訴とは、検察官が裁判所に対し、特定の刑事事件について審判を求める意思表示をすることです。公訴の提起ともいわれます。 検察官が、犯罪をしたと思われる人の処罰を求めて訴訟を起こすのです。起訴をすることができるのは、検察官のみです。これを「国家訴追主義(こっかそついしゅぎ)」「公訴独占主義(こうそどくせんしゅぎ)」といいます(刑事訴訟法247条)。
起訴される前は、犯罪をしたと思われる人は被疑者として捜査されています。その後起訴されると、被疑者は被告人となって裁判に臨むことになります。これは、起訴を経て刑事裁判の手続きに入ることで、呼び名が変わるためです。被「疑」者は疑いを受けている者のことで、被「告」人は刑事告訴(この場合は、起訴のこと)を受けた人ということになります。
起訴の手続き
起訴をする手続きは、検察官が裁判所に起訴状(きそじょう)という書面を提出することで行います。起訴状には、被告人の氏名その他被告人を特定するような事項(氏名のほかには、たとえば被告人の年齢、職業、住居及び本籍など)と、公訴事実(こうそじじつ)、罪名(ざいめい)が記載されています。公訴事実とは、被告人がなしたと思われる犯罪を構成するような具体的な事実を、日時や場所、方法などで特定できるようにした検察官の主張のことです。これを読めば、誰がいつどこでどんなふうに何の犯罪をしたのかが特定できる形で分かるように、法律的に文章が構成されています。罪名とは、罰条(ばつじょう)といわれる、被告人の犯罪行為に該当するような法律条文を伴って表示される、罪の名前です。たとえば、「殺人(刑法199条)」などと表示します。
公訴提起に伴う手続き
検察官は、公訴の提起と同時に、やむをえない事情がある場合は公訴の提起後速やかに、被告人の数に応ずる起訴状の謄本を裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法規則165条1項)。謄本とは、コピーのことです。
また、被疑者や被告人は、弁護士を選任すると「弁護人選任書」という書面を作成し、それを検察官または司法警察員に差し出しますが、その弁護人選任書も、裁判所に差し出さなくてはなりません。弁護人が本当にその被疑者・被告人が選任した弁護人であるとの証拠になる書面だからです。
公訴提起の効果
公訴が提起されると、被疑者が被告人へと変わることは前述しました。同様に、事件としても被疑事件から被告事件へと呼び方が変わります。被疑事件の間は、事件は検察官の手元にあり、起訴か不起訴かの検察官の判断を待つ状態ですが、被告事件となると、事件は裁判所の手元に移ります。事件が裁判所によって扱われるようになり、刑事司法の手続きにのった状態のことを、訴訟係属(そしょうけいぞく)といいます。簡単にいえば、その事件が訴訟になっているという意味です。公訴提起の効果として、訴訟係属が生じます。その事件が訴訟条件を備えている限り、裁判所は事件が本当に起きたのか、被告人は本当に事件の犯人なのかなど、公訴事実の存否を確定して、被告人に対して有罪や無罪の判決をしなければなりません。裁判所は、訴訟係属した事件について、裁判をする権利があり、また義務もあるのです。
起訴しない場合はどうなる?

-
不起訴処分
検察官が事件を起訴することを起訴処分といいます。反対に不起訴にすることを、不起訴処分と言います。起訴されなければその被疑者は不起訴処分になったということになります。
不起訴処分にはいろいろな理由があります。被疑者が本当の犯人かどうか分からない、あるいは犯罪行為をしたのかどうかが疑わしいなど、被疑者に対する犯罪自体が成立しないと思われる場合(「嫌疑不十分」や「嫌疑なし」など)もありますし、様々な事情を考慮した上で起訴するほどの重い罪ではないとしてあえて起訴しない場合もあります(この場合を起訴猶予(きそゆうよ)といいます)。起訴猶予は、不起訴処分の一種であるといえます。また、被疑者が犯罪行為の直後に自殺した場合など、被疑者死亡のまま書類送検(しょるいそうけん)された事件なども、不起訴となります。被告人がいないと公判が成立しないからです。 また、起訴猶予などになっても、後に新証拠などがでて新たに起訴をするということもありえます。
不起訴になると、被疑者は裁判で裁かれることはありませんから、不起訴処分となれば前科はつきません。前科は刑事裁判で有罪判決を受けるとつくものですから、起訴されなければ、たとえ逮捕されていても、書類送検されていても、被疑者に前科がつくわけではありません。
-
微罪処分
軽微な窃盗事件などのうち、被疑者に前科がなく、被害がもう回復しており、また被害者が被害の賠償などに満足して被疑者の処罰を求めていないなど、一定の要件を満たす場合には、被疑者は微罪処分となることがあります。微罪処分とは、被疑者の氏名と犯罪の内容を簡潔に一覧表にし、一括して検察に送致し、検察官はそのまま起訴猶予とする処分のことです。ですから、これも不起訴処分のうちのひとつです。たとえば、消しゴム1つなどの少額の万引きの窃盗事件で、前科のない被疑者が出来心で万引きをしてしまった場合に、スーパーの店主が被疑者の真摯な謝罪を受け、「もういいですよ、今回だけは許します」と言っている場合などに、微罪処分となることがあります。
-
少年事件
少年事件も、通常の刑事事件とは異なる手続きの流れに乗ります。少年事件とは、刑事事件のうち、少年が被疑者である事件のことです。少年とは、二十歳に満たない者のことをいいます(少年法2条)。被疑者が少年である場合は、事件の発生後、検察官・警察官が、すべての事件を家庭裁判所に送致します。そして、家庭裁判所は事件を受理し、家庭裁判所調査官による調査を経て、少年に対して保護処分を行うかどうか、保護処分を行う場合には少年院送致や保護観察など処分の内容を審判し、決定します。ただし、家庭裁判所は、死刑、懲役または禁錮にあたる罪の事件について、調査の結果、その罪質および情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもって、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければなりません(少年法20条1項)。また、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件で、その罪を犯すとき16歳以上の少年にかかるものについても、検察官送致をしなくてはなりません(同条第2項)。これらの場合の検察官送致を、通常成人の刑事事件の場合の検察官送致と区別して、俗に「逆送」「逆送致」と呼びます。ただし、調査の結果、犯行の動機および態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状および環境そのほかの事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは送致しなくてもいいことになっています(同条第2項但書)。
なお、刑法上、14歳に満たない者の行為は罰しない(刑法41条)とされていますから、14歳に満たない刑事未成年者による事件は、「刑事事件」とはなりません。14歳に児童の福祉を管轄する都道府県知事または児童相談所長から家庭裁判所に送致されます。
起訴について、詳しくは、起訴ガイドをご覧ください。 |