A法律事務所設立への道〜弁護士になりたい!日記〜
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・「着手金」とは,事件を委任するにあたって,その成功・不成功の如何を問わず,弁護士が手続を進めるための委任事務処理の対価として支払うお金のことです。着手金は,報酬金とはまったく別のものです。手付金(一時預け金)という意味ではないので,ご注意下さい。
第1 公訴提起前
捜査
(1) 捜査機関
(2) 任意捜査と強制処分
検察官による起訴・不起訴の決定
(1) 不起訴及び起訴猶予
(2) 公訴提起
第2 第一審の裁判手続
概要
争点及び証拠の整理手続
冒頭手続
証拠調べ手続
(1) 検察官の立証
(2) 被告人側の立証
(3) 弁護人の役割
弁論手続
判決宣告手続
第3 上訴手続
控訴及び上告
第4 簡易裁判所の刑事事件について
捜査
(1) 捜査機関
捜査機関は,犯罪が行われたと考える場合に捜査を開始し,被疑者を特定したり犯罪に関する証拠を収集したりします。通常,捜査はまず警察官(司法警察職員)が中心となって行い,書類や証拠物とともに,事件を検察官に送致(送検)することになっていますが,必要な場合には,検察官が自ら捜査することもあります。
(2) 任意処分と強制処分
捜査は,人の身体や財産などに対する強制を伴わない限り(任意捜査),裁判官の発する令状は必要ありませんが,捜査を進める上で,被疑者の身柄を拘束したり,人の住居に立ち入ったり,所有物を差し押さえたりする(強制処分)ためには,現行犯逮捕などの場合を除き,逮捕状,勾留状,捜査差押許可状などの令状が必要になります。これは,不当な人権侵害を防止するため,こうした強制処分は裁判官の発付する令状により行うべきことを憲法が要求していることに基づくものです。
検察官による起訴・不起訴の決定
(1) 不起訴及び起訴猶予
検察官は,捜査の結果に基づいて,その事件を起訴するかどうかを決めます。起訴する権限は検察官のみが有しています。検察官は,被疑者が罪を犯したとの疑いがない,あるいは十分でないと判断する場合には,起訴しないのですが,嫌疑が十分あっても,犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状,犯罪後の情況といった諸般の事情に照らして,あえて起訴する必要はないと考えるときには起訴しないこと(起訴猶予)ができます。
(2) 公訴提起
他方,検察官が起訴することを相当と考えて裁判所に起訴状を提出し,公訴を提起すると,刑事事件の裁判手続が開始されることになります。
被疑者は起訴されることにより被告人となります。この場合,罰金以下の刑に当たる罪等の事件については簡易裁判所が,それ以外の罪の事件については地方裁判所が第一審として事件を担当するのが原則ですが,例外として,内乱等の罪の事件については高等裁判所が,児童福祉法違反等の少年の福祉を害する罪の事件については家庭裁判所が,それぞれ第一審裁判所となります。
概要
第一審の公判手続は,大別して,冒頭手続,証拠調べ手続,弁論手続,判決宣告手続から成っています。また、必要な場合に、争点及び証拠の整理手続(公判前整理手続、期日間整理手続)が行われます。
冒頭手続
冒頭手続で行われる手続で主要なものは,裁判所に出頭した被告人が検察官により公訴を提起された者に間違いないかどうかを確かめる人定質問,審判の対象を明らかにする起訴状朗読,被告人に対し黙秘権その他の権利を説明する権利告知,事件の争点を明らかにする被告事件についての陳述の機会の付与の4つです。
証拠調べ手続
(1) 検察官の立証
冒頭手続の次に行われる証拠調べ手続は,検察官側の立証と被告人側の立証に分かれます。最初に検察官側から立証が行われます。
刑事事件においては,「疑わしきは被告人の利益に」の原則が貫かれていますから,まず,検察官が,証拠によって公訴事実の存在を合理的な疑いを入れない程度にまで証明するための立証活動をしなければならないわけです。具体的な手続としては,検察官は,まず冒頭陳述を行って,証拠によって証明しようとする事実を明らかにした後,個々の証拠の取調べを請求します。これに対して,裁判所は,被告人側の意見を聴いた上で,検察官が取調べを請求した証拠を採用するかどうかを決定し,その上で採用した証拠を取り調べます。証拠には,証人,証拠書類,証拠物の3種類があり,それぞれの種類ごとに,例えば,証人であれば尋問,証拠物であれば展示というように取調べ方法が法律に定められていますので,それに従って取り調べるわけです。
(2) 被告人側の立証
検察官側の立証に続いて,反対当事者である被告人側の立証が行われます。この立証は,裁判官に対して,公訴事実の存在につき,検察官の立証が合理的な疑いを入れない程度にまでは証明されていない,と考えさせるだけで十分であり,それ以上に,公訴事実が存在しないことまで証明する必要はありません。公訴事実の存在に争いがない事件については,主に,被告人にとって有利な情状の存在を証明することを目的とすることになります。裁判所は,検察官側の立証の場合と同様に,被告人側が取調べを請求した証拠を採用するかどうかを決定し,採用した証拠を,法律の手続に従って取り調べます。
(3) 弁護人の役割
現行刑事訴訟法は,当事者主義的訴訟構造を採用しており,当事者が証拠の収集・証拠の公判への提出等の訴訟活動を十分に行い,攻撃・防御を尽すことが,適正・迅速な刑事裁判の実現のための不可欠の前提となっています。検察官は法律家ですから,このような法の要請に応えることが可能ですが,被告人の方は,ほとんどの場合,そうはいきません。そこで,その代理人あるいは補助者としての弁護人の役割が極めて重要になります。死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件等の審理では,弁護人がいなければ開廷できないものとされ(必要的弁護事件),また,被告人が貧困その他の理由により自ら弁護人を選任することができないときなどに,国が弁護人を付ける国選弁護制度が設けられているのも,弁護人の役割の重要性を考慮したものです。
弁論手続
証拠調べ手続が終わると,弁論手続が行われます。まず,検察官が論告を行い,事件に対する事実面,法律面の意見を述べます。通常は,その最後に求刑を行います。次に,弁護人が弁論を行い,被告人の立場から見た事件の事実面,法律面の意見を述べます。最後に行われるのが被告人の最終陳述です。これが終わると結審となり,判決が宣告されることになります。
判決宣告手続
判決宣告手続においては,裁判所が判決の言渡しをします。公訴事実の存在が合理的な疑いを入れない程度に証明され,かつ,その事実が刑罰法令に触れるときは,有罪判決が言い渡されますが,被告事件が罪とならないとき又は被告事件について犯罪の証明がないときは,無罪判決が言い渡されます。
控訴及び上告
第一審の判決に不服がある当事者は,高等裁判所に控訴することができ(ただし,高等裁判所が第一審である事件の場合は,最高裁判所への上告だけが可能です。),高等裁判所の判決に不服がある者は,最高裁判所に上告することができます。
1 はじめに
最近,テレビの報道やドラマなどで刑事裁判のシーンがしばしば取り上げられていますが,ここでは,Aという人物に関する傷害事件の裁判を例にとって,実際の法廷で刑事裁判がどのように進められているかを御紹介します。刑事裁判は,罪を犯した疑いのある人(被疑者)を検察官が起訴することによって始まります。裁判所は,起訴状に書かれた事実が本当にあったかどうかをいろいろな証拠に基づいて判断し,被告人を有罪と認めたときは,どういう刑罰を科するかを決めます。これが刑事裁判の大まかな仕組みですが,その手続を定めた刑事訴訟法や刑事訴訟規則等の法令には,基本的人権の尊重を理念とする日本国憲法の下,被告人の人権保障を全うしつつ,適正かつ迅速な裁判を実現するための様々な規定が設けられています。
Q.刑事裁判はどのくらいの時間がかかるのですか。
A.憲法は,迅速な裁判を受ける権利を保障していますが,具体的な事件の裁判がどのくらいの時間を要するかは,事件の種類や内容その他の様々な事情によって変わってくるため,一概にはいえません。それでも,「遅れた裁判は裁判の拒否に等しい」ということわざもあり,迅速な裁判の実現は,裁判に携わる者が目指すべき重要な課題であることは当然です。そのため,第1回公判期日が開かれる前から当事者(検察官及び弁護人)に十分な訴訟準備を求めたり(事前準備),公判期日の間にも,当事者に裁判所に来てもらって,必要な準備を促したりすることもあります。また,事件が複雑であるなど必要がある場合には,公判前整理手続を行い,事件の争点と証拠を整理して審理計画を立てた上で,公判に臨むこともあります。あらかじめ審理計画を立てることによって,裁判を計画的かつ迅速に行うことができるわけです。ちなみに,日本の刑事裁判は長引くということがしばしば指摘されますが,通常は,起訴された後,3か月前後で判決が出されており,これは諸外国に比べても決して遅くはありません。また,即決裁判手続や略式手続で終わる事件は,ごく短期間に終結します。
なお,公職選挙法には,一定の罪に係る事件につき,事件受理から百日以内に判決をすべきであるとの規定があります。百日裁判と呼ばれますが,これは,当選者自身が選挙犯罪の被告人である場合や,いわゆる連座制の適用がある事件などに適用されるものです。こうした事件では,迅速な裁判実現のために,当事者の協力が特に強く求められます。
Q.捜査はだれが行いますか。
A.捜査は捜査機関が担当します。具体的には,司法警察職員,検察官及び検察事務官です。司法警察職員には,一般の警察官(一般司法警察職員)と特別な法の規定に基づいてその職務を行う特別司法警察職員が含まれます。後者の例は,皇宮護衛官,麻薬取締官,海上保安官,郵政監察官,労働基準監督官などです。捜査は,第一次的には,司法警察職員が行うこととされていますが,必要と認めるときは,検察官も自ら捜査を行うことができ,また,検察事務官も検察官の指揮を受けて捜査を行います。
Q.逮捕とは何ですか。
A.逮捕とは,罪を犯したと疑われる人(被疑者)の身柄を拘束する強制処分です。逮捕には,裁判官が発付する令状によって行われる令状による逮捕と現に犯罪を行っているか,犯罪を行い終わって間がない場合などで,人違いなどのおそれがないと考えられるため,逮捕状が必要とされない現行犯逮捕とがあります。前者には,事前に裁判官が「逮捕することを許可する」旨の令状(通常逮捕状)を発付して行われる通常逮捕と,一定の刑罰の重い罪を犯したと疑われる場合で,逮捕状を請求する時間がないときに,まず被疑者を逮捕し,その後直ちに「その逮捕を認める」旨の裁判官の令状(緊急逮捕状)発付を求める緊急逮捕とがあります。
逮捕は,警察官がする場合と検察官がする場合とがありますが,警察官が逮捕した場合には,原則として,逮捕から48時間以内に,被疑者を釈放するか事件を被疑者の身柄付きで検察官に送る(送検)かを判断しなければならず,送検した場合は,検察官は身柄を受け取ってから24時間以内,かつ,逮捕時から72時間以内に勾留請求をしない限り,被疑者を釈放しなければなりません。また,検察官が逮捕した場合は,原則として,逮捕から48時間以内に勾留請求をしない限り,被疑者を釈放しなければなりません。つまり,逮捕による身柄拘束時間は,警察官が逮捕した場合は最大72時間,検察官が逮捕した場合は最大48時間ということになります。
Q.勾留とは何ですか。
A.勾留は,身柄を拘束する処分ですが,その中にも被疑者の勾留と被告人の勾留とがあります。被疑者の勾留は,逮捕に引き続き行われるもので,罪を犯したことが疑われ,かつ,証拠を隠滅したり逃亡したりするおそれがあるなどの理由から捜査を進める上で身柄の拘束が必要な場合に,検察官の請求に基づいて裁判官がその旨の令状(勾留状)を発付して行います。勾留期間は10日間ですが,やむを得ない場合は,検察官の請求により裁判官が更に10日間以内の延長を認めることもあります。また,内乱等のごく例外的な罪に関する場合は,更に5日間以内の延長が認められています。
これに対し,被告人の勾留は,起訴された被告人について裁判を進めるために身柄の拘束が必要な場合に行われますが,罪を犯したことが疑われ,かつ,証拠を隠滅したり逃亡したりするおそれがあるなどの理由が必要な点は,被疑者の勾留の場合と同様です。勾留期間は2か月で,特に証拠を隠滅するおそれがあるなど必要性が認められる限り,1か月ずつ更新することが認められています。
Q.被疑者と被告人の違いは何ですか。
A.被疑者とは,ある犯罪を犯したと疑われ,捜査機関によって捜査の対象とされている人のことです。被告人とは,検察官により公訴を提起された人のことです。
Q.刑事裁判手続について,検察官はどのような役割をしますか。
A.検察官は,公益の代表者として,罪を犯したと疑われる人(被疑者)を起訴し,又は起訴しない処分(不起訴処分)をする権限,及び起訴した場合には公判に出席して訴訟を追行する権限を有しています。また,検察官は,警察官と並んで捜査する権限も有しています。
Q.検察審査会という組織があると聞きましたが,どのようなことをしていますか。
A.検察審査会は,衆議院議員の選挙権を有する国民の中からくじで選ばれた11人の検察審査員によって組織され,検察官がした不起訴処分の当否を審査することを主な仕事としています。
我が国では,被疑者を起訴するかどうかを決めるのは,検察官の権限とされていますが,検察審査会制度は,この検察官の権限の行使に民意を反映させて,その適正を図ることを目的として設けられています。
検察審査会は,犯罪の被害にあった人や犯罪を告訴・告発した人から,検察官の不起訴処分を不服として申立てがあったときに審査をします。また,検察審査会が職権で審査をすることもあります。
審査は,検察審査会議を開き,検察庁から取り寄せた事件の記録を調べたり,証人を尋問するなどして行われます。
検察審査会は,審査の結果,不起訴相当(不起訴処分は相当であるという議決),不起訴不当(不起訴処分は不相当であり更に詳しく捜査すべきであるという議決),起訴相当(起訴するのが相当であるという議決)のいずれかの議決をします。議決の内容は,検察官に知らされ,検察官は,不起訴不当,起訴相当の議決については,これを参考にして事件を再検討します。その結果,起訴するのが相当であるとの結論に達したときは,起訴の手続がとられます。
なお,審査の申立てや相談には一切費用がかかりません。また,秘密は固く守られます。不起訴処分に納得できない方や検察審査会についてもっと詳しく知りたい方は,最寄りの検察審査会にお問い合わせください。また,あなたが検察審査員に選ばれた場合には,どうぞこの制度に御協力くださるようお願いします。
Q.起訴状にはどのようなことが書かれているのですか。
A.起訴状は,検察官が被告人の処罰を裁判所に求めるときに提出する書面であり,そこには氏名,生年月日,住所など被告人を特定するための事項と,公訴事実として被告人が犯したと疑われる犯罪事実及び罰条として適用すべき罰則を記載することになっています。起訴状には,裁判官が予断を持つような事項を記載してはならず,証拠なども一切添付することはできません。裁判官は,起訴状に記載されていることの他は,全く白紙の状態で,第1回の公判期日を迎えることになっています。これを,一般に起訴状一本主義といっています。
Q.弁護人はどのように選任しますか。
A. 弁護人は,捜査段階における被疑者又は起訴された被告人の権利を擁護する役割を果たしています。死刑,無期懲役など一定の重い刑罰が定められている事件等については,弁護人がいなければ開廷できないことになっています(必要的弁護事件)。選任の方式には,被疑者や被告人自身あるいはその親族等が選任する場合(私選)と,貧困その他の理由で弁護人が選任できないときなどに裁判所が選任する場合(国選)とがあります。もっとも,国選弁護人も私選弁護人も,弁護人の活動内容は基本的に異なるところはありません。
国選弁護人の選任は,起訴後だけでなく,一定の重い刑罰が定められている事件で勾留されている被疑者及び検察官から即決裁判手続によることの同意をするか否かの確認を受けた被疑者から請求があった場合にも,することができます。
平成18年10月以降,日本司法支援センターが選任・解任以外の国選弁護人制度の運営を担い,国選弁護人の候補となる弁護士を契約により確保していますので,裁判所は,国選弁護人を選任するときは,同センターに対して,国選弁護人候補を指名して通知するよう求めることになっています。同センターは,これを受けて遅滞なく国選弁護人の候補を指名して通知し,裁判所はこれに基づいて国選弁護人を選任します。
国選弁護人の報酬は日本司法支援センターから支給されることになりますが,有罪判決の場合には,原則として,被告人が訴訟費用としてその負担を命じられることになります。
Q.保釈はどのような場合に認められますか。
A.裁判所は,被告人が証拠を隠滅したり,逃亡するおそれがある場合に勾留しますが,勾留はあくまで裁判を進めるための手段ですから,被告人の身体の自由を奪わなくても,他の方法で同じような目的が達せられるのであれば,その方が望ましいわけです。そこで刑事訴訟法は,被告人が一定の保証金を納めるのと引換えに,被告人の身柄を釈放し,もし,被告人が裁判中に逃亡したり,裁判所の呼出しに応じなかったり,証拠を隠滅したりした場合には,再びその身柄を拘束するとともに,納められた保証金を取り上げること(没取)ができるように保釈という制度を設けています。保釈には,請求による場合と裁判所の職権による場合とがあります。勾留は,被告人の身体の自由に対し大きな制限を加えることになりますから,保釈の請求があれば,裁判所は一定の場合を除いて必ずこれを許さなければならないこととされています。これを権利保釈といいます。しかし,殺人や放火などの重大な犯罪を犯したとして起訴されている場合,犯罪の常習者である場合,証拠を隠滅するおそれがある場合など,法律で定められたいくつかの場合に当たるときには,権利保釈の例外として,保釈の請求があっても,裁判所はこれを許可しないことができます。もっとも,この例外に当たる場合でも,具体的事情によっては,裁判所の判断で保釈を許可することができます。これを裁量保釈といいます。保釈の請求は,被告人自身のほか,配偶者,親などの近親者や弁護人からすることができます。この請求は,起訴があれば,公判が始まる前でも後でも,判決が確定するまではいつでもすることができます。保証金の額は,裁判所が,犯罪の軽重,被告人の経済状態,生活環境などの一切の事情を考慮して,その事件で被告人の逃亡や証拠の隠滅を防ぐにはどのくらいの金額を納めさせるのが適当かを判断して決めます。保証金は現金で納めるのが原則ですが,裁判所の許可があれば,株券などの有価証券を代わりに納めることもできますし,場合によっては,保証金の一部の納付に代えて,雇い主や親,兄弟などの身元引受人が保証書を差し出すことも認められています。この保証書を差し出した者は,保釈が取り消されて保証金を没取されることとなった場合には,保証書に記載した金額を納付する義務を負うことになります。保証金は,被告人が間違いなく公判に出頭するようにするためのものですから,保釈を取り消されて没取されることがなければ,裁判が終わった後には,その結果が無罪でも有罪でも,納めた人に返還されます。
3 公判手続
(1) 冒頭の手続等
しばらくして,第1回の公判期日が開かれました。この事件は,乙地方裁判所で1人の裁判官によって審理されることになりましたが,このように1人の裁判官が審理する事件を,一般に単独事件と呼びます。そのほかに,3人の裁判官による合議体で審理する合議事件もあります。
この事件で,裁判官は,まず,Aに,住居,氏名等を尋ね,出頭した人が被告人に間違いないかを確認した後,検察官が起訴状を朗読しました。起訴状の内容は,Aが甲市内のスナックで,居合わせたFの頭をビール瓶で殴ったりして全治1箇月のけがを負わせたというものです。その後,裁判官は,Aに黙秘権などを説明した上で,被告人Aと弁護人Bに対し,事件について意見を述べる機会を与えました。テレビや新聞などでは「罪状認否」といわれています。Aは,「Fをビール瓶で殴ったりしたことは間違いないが,それは,Fが先に手を出してきたからだ。その時は,だいぶ酔っていたので,思わずやり返してしまった。」と述べ,弁護人Bも正当防衛と心神耗弱を主張しました。これで,裁判の争点が明らかになりました。
Q.簡易裁判所と地方裁判所のどちらが第一審裁判所となるのですか。
A.刑事事件の通常の第一審裁判所は,簡易裁判所と地方裁判所です。簡易裁判所は,罰金以下の刑罰のみが定められている事件を独占的に担当しますが,その一方,原則として,罰金以下の刑罰しか科すことができません。ただし,窃盗や常習賭博など一部の犯罪については,3年以下の懲役刑を科すことができます。もし,事件を受理した簡易裁判所が,より重い刑罰を科すべきだと考えた場合には,地方裁判所へ事件を移送することになっています。
他方,地方裁判所にはこのような制限はありませんが,一定以上の重い刑罰が定められている事件については,3人の裁判官の合議体で審理することになっています。
ただし,児童福祉法違反等の少年の福祉を害する罪については家庭裁判所が,また,内乱の罪など一部の事件については高等裁判所が,それぞれ第一審裁判所として審理を担当します。
Q.単独事件と合議事件とはどのように区別されますか。
A.地方裁判所が第一審となる場合に,1人の裁判官が審理する事件を単独事件,3人の裁判官の合議体で審理する事件を合議事件と呼んでいます。合議事件には,殺人,放火などのように重い刑罰が定められているため,必ず合議体で審理しなければならない事件(法定合議事件)と,争点が複雑であるなどの理由から,本来は単独事件で審理できるものを,特に合議体で審理する事件(裁定合議事件)とがあります。なお,簡易裁判所は,1人の裁判官がすべての事件を審理しますし,上訴審の高等裁判所や最高裁判所は常に合議体で審理しますので,このような区別はありません。
Q.即決裁判手続という手続があると聞きましたが,どのような手続ですか。
A.検察官は,事案が明白かつ軽微であること,証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し,相当と認めるときは,起訴状を裁判所に提出する際に,即決裁判手続の申立てをします(注)。その後公判期日において被告人が自らが有罪であると述べ,裁判所が相当と認めた場合には,裁判所は即決裁判手続で審判する旨の決定を行います。
即決裁判手続で審判された事件については,懲役・禁錮を科す場合は,必ず執行猶予が付されます。また,原則として起訴から14日以内に公判期日が開かれ,通常よりも簡略な方法で証拠調べが行われた上,その日のうちに判決がなされることから,被告人にとっては刑事裁判手続から早期に解放されるという大きなメリットがあります。その一方,裁判所が判決で認定した犯罪事実が誤りであることを理由としては上訴の申立てをすることができない等,一定の制約もあります。
このことから,被疑者が即決裁判手続によって審判することにつき同意し,起訴前に弁護人がいる場合は弁護人もこれに同意または意見を留保した場合でなければ,検察官は即決裁判手続を申し立てることはできないこととなっています。また,被告人及び弁護人の同意は判決が言い渡されるまでの間,いつでも撤回することができ,撤回された場合は通常の手続により審判がなされることとなります。
注 死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮を科すことができる事件については,即決裁判手続により審判することはできないことになっています。
Q.黙秘権とは何ですか。
A.憲法は,何人も自己に不利益な供述を強要されないことを保障していますが,刑事訴訟法はこれを拡大して,被告人は公判廷において終始沈黙することができるとしています。これを黙秘権といいますが,被告人は,同時に個々の質問に対し陳述を拒むこともできます(供述拒否権)。この権利の保障をより確実にするため,公判廷では,開廷に当たり裁判官から被告人に対して,黙秘権等の権利を告知することが定められています。
Q.心神喪失又は心神耗弱とは何ですか。
A.刑罰法規に触れる行為をした人の中には,精神病や薬物中毒などによる精神障害のために,自分のしていることが善いことか悪いことかを判断したり,その能力に従って行動する能力のない人や,その判断能力又は判断に従って行動する能力がが普通の人よりも著しく劣っている人がいます。
刑法では,これらの能力の全くない人を心神喪失者といい,刑罰法規に触れる行為をしたことが明らかな場合でも処罰しないことにしています。また,これらの能力が普通の人よりも著しく劣っている人を心神耗弱者といい,その刑を普通の人の場合より軽くしなければならないことにしています。
これらは,近代刑法の大原則の一つである「責任なければ刑罰なし」(責任主義)という考え方に基づくもので,多くの国で同様に取り扱われています。
3 公判手続
(2) 証拠調べ手続から結審まで
続いて証拠調べ手続に入りました。刑事裁判では,被告人が起訴状に書かれた罪を犯したことを,確実な証拠で証明する責任(立証責任)は検察官が負っています。検察官は,まず冒頭陳述を行い,証拠によって証明しようとする事実を明らかにした上で,証拠の取調べを請求しました。この場合,例えば,目撃者の供述を聴き取った調書などの証拠書類(書証)は,相手方が同意しない限り,原則として,刑事裁判の証拠にはできず,目撃者に法廷で証言してもらわなければなりません(人証)。つまり,法廷における供述の代わりに提出される書面や法廷外での他人の供述は,伝聞証拠として,原則として,証拠とすることができないわけです。これは,相手方が目撃者などに対し直接尋問したいときは,その機会を与えるのが相当だからです。この事件では,弁護人Bは,被害者Fと店長Sの調書については不同意としましたが,現場見取図等を付けた警察官作成の報告書,医師が作成した診断書等のその他の書証については同意しました。また,犯行に使われたビール瓶(物証)の取調べについても異議はないと述べました。そこで,まず,同意された書証とビール瓶が取り調べられた後,検察官から請求されたFとSの証人尋問が行われることになりました。証人尋問は,尋問を請求した側からの尋問(主尋問)と相手方からの尋問(反対尋問)を交互に行い,最後に裁判官から補充的な尋問が行われるのが一般的です。この事件では,被害者Fが外国人で日本語に通じていないため,その証人尋問に先立って通訳人が選任されました。Fは,検察官からの主尋問で,「Aが大声で騒いでいてうるさかったので,注意したところ,いきなりAから殴られた。」と証言し,反対尋問で,「注意する際,Aの肩をとんとんとたたいたが,暴力は振るっていない。」と証言しました。次に,店長Sは,主尋問で,「Aは,店内でうるさかった。FがAの肩をたたいたが,強くたたいてはいなかった。」などと証言しました。弁護人Bが,「Sはカウンターの中にいて事件の様子がはっきり見えなかったのではないか。」などと反対尋問を行いましたが,Sは,「はっきり見えた。」などと答えました。
第2回の公判期日では,被告人Aが,弁護人Bと検察官と裁判官から,それぞれ事件について質問を受けました。Aは,「被害者Fに肩を強くたたかれ,何かわけの分からない言葉で文句を言われたので,かっとなって反撃してしまった。」などと述べました。これに引き続き,Aの犯行当時の精神状態を調査するため,精神科医が鑑定人として選任されました。鑑定人は,後日,犯行当時のAの精神状態には特に問題はなかったという内容の鑑定書を裁判所に提出しました。
第3回公判期日では,この鑑定書が取り調べられた後,最後に,被告人Aの身上や経歴と事件に関するAの供述が記載された調書を取り調べ,証拠調べ手続をすべて終えました。その後,検察官が「論告」と呼ばれる意見陳述を行い,被告人にどのような刑罰を科すべきかについての意見(求刑)も述べました。次に,弁護人Bが意見陳述(弁論)を行い,被告人Aも意見を述べて(最終陳述),この事件の審理は終結しました。あとは,裁判官が被告人Aが有罪か無罪かということと,有罪である場合には科すべき刑罰を決めて(量刑),判決を言い渡すことになります。
Q.立証責任とは何ですか。
A.「疑わしきは罰せず」とか「疑わしきは被告人の利益に」という言葉は聞いたことがあると思いますが,刑事裁判では,被告人の有罪を確実な証拠で,合理的な疑いを入れない程度にまで立証することについては,検察官がその責任を負います。これが立証責任です。そして,検察官の方で立証を尽くしても,被告人を有罪とするために必要なある事実が存在するかどうかが立証できなかった場合には,その事実は存在しなかったものとして,被告人に有利な判断をしなければなりません。つまり,「疑わしきは罰せず」の原則により,無罪の判決を言い渡すことになります。
Q.伝聞証拠とは何ですか。
A.簡単な例を挙げて説明しますと,甲という人が,被告人に不利益な供述を警察官にして,その内容について調書が作成され,被告人の公判廷に証拠として提出されたとしましょう。被告人が,もし,その甲の供述調書の内容には,甲の勘違いや思い違いなどがあると考えても,書面化された証拠に対しては,十分な反ばくをすることはできません。これに対し,甲が公判廷に証人として出廷するのであれば,仮に甲が供述調書と同内容の証言をしても,被告人は勘違いや思い違いなどがないかを甲に直接問い質して甲の証言の信用性を吟味することができます。このように,公判廷で証人に対して直接尋問(反対尋問)する権利を保障するため,刑事訴訟法は,それを証拠とすることの同意がない限り,調書などの供述内容を書面化したものや,自分が直接見聞きした事柄でなく,他人から間接的に聞いたことに関する供述(これらを伝聞証拠と言います。)を証拠とすることを,原則として禁止しています。
Q.刑事裁判の証人として呼ばれた場合にはどうすればよいですか。
A.裁判所が犯罪事実などの事実を誤りなく認定し,正しい裁判をするためには,問題となっている事実を見聞きした人を証人として直接尋問することが必要不可欠です。仮に,警察官などに対して,同じ趣旨の供述をしていて,調書が作成されている場合でも,伝聞証拠は同意がない限り原則として証拠とできないため,証人として,公判廷で供述することが必要となります。
裁判所から証人として呼ばれながら(召喚),正当な理由がなく出頭しない場合には,勾引といって強制的に裁判所に出頭させるための手続が採られることもあります。正当な理由とは,病気のため裁判所に出頭できない場合などやむを得ないときがこれに当たりますが,単に仕事が忙しいとか,裁判所が遠隔地にあるというような事情はこれに当たりません。出頭した証人に対しては,日当及び旅費が支給されますし,裁判所に出頭するために宿泊しなければならないような場合には,宿泊料も支給されます。なお,出頭できない場合には,医者の診断書等を添えて前もって裁判所に連絡していただければ,裁判所は期日を変更するなどして,訴訟関係人等に迷惑をかけることのないよう配慮することができます。
出頭しても,当時の記憶が薄れてしまっている場合も考えられますが,記憶がないことは記憶がないとありのままに答えてください。記憶がないのに,あるように話したり,記憶があるのに,ないように話すことは,裁判を誤らせる原因になりますので,絶対にしないでください。もちろん,わざと嘘の証言をすれば,偽証罪で処罰されることがあります。また,証言によって証人自身が刑罰に問われる可能性がある事柄や,証人の配偶者,親,子など法律で定める一定の身分関係にある者が処罰されるおそれのある事柄については,証言を拒否することができますが,それ以外の事柄は正直に知っているままを証言する義務があります。
Q.鑑定人とは何ですか。
A.裁判所は証拠に基づいて被告人が有罪か無罪かを決めるわけですが,審理に携わる裁判官は,法律の専門家であり,かつ,高い識見が要求される職責にあるとはいっても,あらゆる分野の知識等に精通しているわけではありません。ところが,実際には,医学,工学,自然科学などの専門的知識等がないと正しく判断することができない事件がかなりあります。そこで,このような場合には,学識経験のある者を鑑定人として選任し,その知識等を裁判所の事実認定に役立てることにしているのです。実際の事件では,心神喪失等の主張がされた場合に,被告人の犯行当時の精神状態を調査してもらったりする例などが多く見られます。
Q.法廷における通訳人とは何ですか。
A.日本語を理解できない外国人が被告人や証人となった場合,外国語で行われた被告人の供述や証人の証言を日本語に通訳したり,その逆に,日本語で行われた裁判官,検察官及び弁護人の質問等を被告人や証人に通訳する必要があります。法廷でこの役割を担当するのが法廷における通訳人です。通訳人は,刑事裁判において日本語を理解できない被告人の人権を保障し,適正な裁判を実現する上で,極めて重要な役割を果たしています。また,職務上知り得た情報を漏らしたり,検察官,弁護人,被告人その他の訴訟関係人の一部に味方したりして,中立・公平さを疑われるような行動を取らないようにするなど,高い倫理性が求められています。通訳人は,通訳が必要な事件ごとに裁判所によって個別に選任され,通訳料,旅費等が支払われます。
最近では,フィリピノ(タガログ)語,ペルシャ語,タイ語,ベトナム語など日本国内でその言語を理解する人の少ない言語についても通訳を要する事件が多く,裁判所では,特にこのような言語について十分な通訳能力のある方で,法廷における通訳をしてみようという意欲のある方には,通訳人として活躍していただきたいと考えています。そのような能力と意欲のある方は,最寄りの地方裁判所の刑事訟廷事務室に御連絡ください。面接などを受けていただき,通訳人としての適性を備えていると認められた方の中から通訳人を選任しています。
Q量刑はどのように決めるのですか。
A.裁判官は,審理の結果,被告人を有罪と認めた場合には,どのような刑を言い渡すかを決めることになります。具体的には,死刑,懲役,罰金などの刑の種類とともに,有期懲役刑や罰金刑では,刑期や金額も決めることになります。これを刑の量定又は量刑と言います。
ところで,我が国の刑罰法規では,ある犯罪行為に対して科すべき刑罰の範囲(法定刑)が相当な幅をもって定められているのが普通です。例えば,刑法の殺人罪は,「死刑又は無期若しくは3年以上の懲役」と定められており,裁判官は,死刑から懲役3年までの非常に広い範囲の中から量刑をすることになります。一般には,罪の重さと刑罰との釣合いを考えたり,同じような犯罪の発生を防ぐことや被告人が社会人として立ち直るために役立つものであることも考えたりする必要があります。具体的には,犯罪の内容,動機,手段,方法,結果や社会的影響,被告人の性格,年齢,経歴や環境,犯行後における被告人の態度,被害弁償その他の事情を総合的に考えることになります。その際には,同種事件の裁判例も参考となります。
3 公判手続
(3) 判決宣告
第4回の公判期日では,判決が宣告されました。裁判官は,起訴状に記載された事実とほぼ同様の傷害の事実を認定し,正当防衛の主張を認めず,また,心神耗弱の主張も認めませんでしたが,これまでに前科がないこと等被告人Aにとって有利に考慮すべき点もあるとして,執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました。これで,第一審の裁判手続は,すべて終わりになります。
Q執行猶予が付いているとどうなるのですか。
A.執行猶予の付いていない刑を俗に「実刑」と言いますが,例えば,裁判で懲役1年の実刑が言い渡され,それが確定すると,懲役1年の刑が直ちに執行されることになり,被告人は刑務所で定役に服さなければなりません。ところが,懲役の刑に執行猶予が付いている場合には,裁判が確定しても,被告人は直ちに刑務所に入れられてしまうということにはなりません。それでは無罪と変わらないのではないかと思われるかもしれませんが,そうではありません。執行猶予の場合には,被告人は有罪であると裁判され,これに科すべき刑もはっきり決められており,裁判で言い渡された執行猶予の期間内に被告人が再び罪を犯したりすると,執行猶予が取り消され,決められたとおりの刑を執行されることになるからです。執行猶予に付された人が再び罪を犯したりすることなく,その猶予の期間を無事に過ごしたときは,刑の言渡しそのものが効力を失い,将来まったくその刑の執行を受けることがなくなります。
執行猶予は,前科がない者などについて,3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金を言い渡すときに付けることができます。また,執行猶予と同時に保護観察に付して,猶予の期間中,保護観察所の保護観察官や保護司の指導を受けるようにすることもあります。
刑罰を科す目的には,悪いことをすればそれ相応の苦痛を与えられるべきだということと,罪を犯すとこのような重い刑を受けるのだということを世間の人に知らせ,他の者が罪を犯さないようにすることが考えられます。しかし,刑罰には,犯人のその過ちを自覚反省させ,社会の役に立つ人間として立ち直らせるという働きがあることも見逃せません。そして,近代においては,刑罰のこのような働きが重視されるようになってきました。そうすると,比較的軽い罪を犯したような場合で,犯人が自分の非を悟り,今後はまじめな生き方をしていきたいと心に誓っているようなときは,もはや刑の執行をする必要はないともいえますし,このような人を刑務所に入れると,世間の人から特別の目で見られたりして自暴自棄になり,せっかく立ち直ろうとした決意が崩れて,かえって以前よりも悪くなるといった事態も考えられます。そこで,執行猶予の制度が考え出されたのです。執行猶予の制度が初めて我が国に採り入れられたのは,明治38年ですが,次第に適用範囲が広げられ,また,改善されて現在のような形になりました。
4 犯罪被害者保護制度
犯罪の被害に遭った方々に対する配慮と保護を図るための制度として,(1)証人の負担を軽くするための措置,(2)被害者等による意見の陳述,(3)検察審査会に対する審査申立て,(4)裁判手続の傍聴のための配慮,(5)訴訟記録の閲覧及び謄写,(6)民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解などがあります。さらに,平成19年に法律が改正されたことにより,「被害者等が刑事裁判に参加する制度」,「被害者等に関する情報保護」,「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度」,「訴訟記録の閲覧及び謄写の範囲の拡大」についての規定が設けられ,そのうち「訴訟記録の閲覧及び謄写の範囲の拡大」及び「被害者等に関する情報保護」については,同年12月26日から施行されました。なお,「被害者等が刑事裁判に参加する制度」及び「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度」については,平成20年12月までに施行されます。
Q.証人の負担を軽くするための措置とはどのようなものですか。
A.性犯罪の被害者や年少者などは,法廷で証人として証言する場合,不安や緊張を感じたり,犯罪により被った精神的な被害が更に悪化してしまったりすることも考えられます。そこで,裁判所の判断によって,チ保護者やカウンセラーが証人に付き添ったり(証人への付添い),ツ証人と被告人や傍聴人との間に衝立を置いたり(証人の遮へい),テ証人は別室にいて,法廷にいる裁判官や検察官,弁護人などとの間でテレビモニターを通して証人尋問を行う(ビデオリンク方式による証人尋問)といった制度が設けられています。
Q.被害者等による意見の陳述とはどのようなものですか。
A.被害者等は,希望する場合には,被害感情その他の事件に関する意見を法廷で述べることができます。この意見陳述により,被害者等は一定の範囲で刑事裁判に主体的に関与することができ,また,被告人に被害感情や被害の実態を十分に認識させることになれば,その反省や立ち直りにも役立つ場合があると考えられます。
Q.検察審査会に対する審査申立てはだれができるのですか。
A.検察審査会は,検察官の不起訴処分のよしあしを審査することを主な仕事としています。告訴・告発をした方,被害者(被害者が死亡した場合に,その遺族)が申立てをすることができます。
Q.裁判手続の傍聴のための配慮とはどのようなものですか。
A.裁判は公開されており,誰でも傍聴できますが,社会的な関心が高く,傍聴を希望する人が多い事件では,法廷の座席数に限りがあることなどから,必ずしも全員が傍聴することができるわけではありません。しかし,被害者等は審理状況等に深い関心を有することから,裁判長は,被害者等から傍聴の申出があった場合には,傍聴ができるよう配慮しなければならないものとされています。
Q.訴訟記録の閲覧及び謄写とはどのようなものですか。
A.刑事事件においては,裁判が進行中の事件では,その訴訟記録を一般の人が閲覧したり謄写したりすることはできません。しかし,刑事事件の被害者等については原則として,訴訟記録を閲覧したり,謄写したりすることができます。また,閲覧謄写をしようとする事件の被告人等により行われた,その事件と同種の犯罪行為の被害者の方(同種余罪の被害者)は,損害賠償を請求するために必要があると認められる場合には,訴訟記録を閲覧したり,謄写したりすることができます。
Q.民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解とはどのようなものですか。
A.裁判外で,被告人と被害者等との間で,被害弁償などを約束する示談ができたときには,その内容を書いた示談書が,刑事裁判で証拠として提出されることがあります。しかし,被告人等が約束どおりの支払をしないときでも,示談書だけでは約束の内容を強制的に実現することができません。そのためには,改めて,被告人等を相手に民事裁判を起こして判決を得てから強制執行をしなければなりません。このような被害者等の負担を避けるために,被告人と被害者等が共同してその合意の内容を刑事裁判の公判調書に記載することを求め,裁判所が合意の内容を公判調書に記載したときには,その記載に基づいて強制執行をすることのできる制度が設けられました。
Q.被害者等に関する情報保護の制度とはどのようなものですか。
A.性犯罪などの被害者の氏名や住所などについて,公開の法廷で明らかにしないように求めることができます。裁判所がその旨の決定をした場合には,起訴状の朗読などの訴訟手続が,被害者の氏名や住所などを明らかにしない方法により行われます。
5 上訴手続
我が国の刑事裁判制度は,高等裁判所が第一審として事件を管轄する一部の事件の場合を除き,三審制を採っています。第一審の判決に不服がある当事者は,高等裁判所に控訴を申し立てることができ,高等裁判所の判決に対しても,最高裁判所に上告することができます。
Q.どのような場合に上訴できますか。
A.第一審の裁判所で言い渡された判決に不服がある当事者は,高等裁判所に対し,判決に誤りがあることを主張してこれを正してもらうことができますが,この手続を控訴といいます。控訴ができるのは,第一審の審理の方法(訴訟手続)が法律に定められた方法に反しているとか,第一審の判決が事実の認定や法律の解釈適用を間違えているとか,刑が重過ぎるとか軽過ぎるという場合などです。そして,控訴審では,第一審と同じやり方で審理を始めからやり直すのではなく,第一審の審理の記録を点検して,その審理のやり方や事実認定,法令解釈に誤りがないか,刑は適当かどうかということを調べることになります。ですから,控訴審では,公判を開いても,検察官や弁護人が判決に誤りがあるかどうかについて意見を述べるだけで,第一審のように法廷で証人やその他の証拠の取調べをしないのが原則です。もっとも,第一審の証人を呼んで聞き直したり,第一審当時いろいろな事情で調べることのできなかった証人を取り調べたりして,事実を確かめることは許されています。こうして,記録を調査したり,事実の取調べをした結果,第一審の判決に誤りがないことが分かった場合は,「控訴棄却」の判決をします。また,第一審の判決に誤りが発見された場合は,これを取り消すため「原判決破棄」の判決をしますが,原判決が破棄されると,まだ第一審の判決が出されていないのと同じ状態になるので,この場合,第一審で更に証拠を取り調べたり,誤りを正して判決をやり直した方がよいときには,事件を「第一審に差し戻す」,又は「○○裁判所に移送する」という判決を併せて言い渡します。そうすると,事件はもう一度第一審で審理されることになります。もっとも,控訴審での審理の結果,すぐに結論が出せる場合には,第一審に差し戻さないで,代わりに自ら判決を言い渡すこともできます。「破棄自判」というのはこの場合です。
このような控訴審の判決に対しては,更に当事者から最高裁判所に判決の誤りがあることを主張してこれを正してもらうことができます。この手続を上告といいます。上告は,控訴審の判決が憲法に違反していたり,憲法の解釈を誤っていたり,あるいは最高裁判所の判例に違反していることなどを理由とする場合に認められます。最高裁判所は,憲法の番人として,法令等が憲法に適合するかどうかを判断するという役割を与えられているとともに,上告審として,最終的に法令の解釈を統一するという役割を果たすことも求められています。前述した上告理由は,こうした最高裁判所の果たすべき役割を反映したものです。このように,上告審は,憲法や法律の解釈について審査するのが目的ですから,第一審や控訴審のように証人を呼んだりして事実関係を取り調べることはありません。他方,最高裁判所の判決に対してはもはや不服の申立てができないことから,上記上告理由に該当するとき以外でも,例えば,控訴審の判決で無罪とすべき者を有罪としてしまった場合や,刑が著しく不当である場合など,これを取り消さないと「著しく正義に反する」ときには,「原判決を破棄」することができることになっています。控訴審の判決に誤りがないときは,「上告棄却」の裁判をすることや,原判決を破棄したときは「差し戻す」,又は「○○裁判所に移送する」という判決を併せて言い渡すことなどは,控訴審の場合とほぼ同様ですが,差戻しの場合は,事件を控訴審に戻す場合と第一審に戻す場合があり,また例外的に「破棄自判」する場合もあります。
このような上訴制度が設けられているのは,一つには正しい裁判が行われるように上級の裁判所で再審査して誤りのないことを確かめるためですが,もう一つの目的は,裁判所の間で法律の解釈などについて意見が分かれるのを防ぐことにあります。
被疑者に対する○○被疑事件について、弁護士 甲野太郎を弁護人に選任しましたので、連署をもってお届けします。
地方検察庁 御中
被告人に対する○○被告事件について、弁護士 甲野太郎を弁護人に選任しましたので、連署をもってお届けします。
上記被疑者に対する被疑事件につき、弁護人は下記のとおり抗議する。
1 当職は、○○被疑事件につき逮捕されている上記被疑者(以下「被疑者」という。)の弁護人であるが、被疑者は貴署にて次のとおり接見妨害を受けた。
2 当職は、○年○月○日午後9時30分ころ、被疑者の家族○○氏から、被疑者が逮捕されたので直ちに接見出動する旨の依頼を受けた。
そこで、当職は、依頼を受けた直後、貴署に架電の上、対応した○○刑事に対して、接見を要請した。ところが、○○刑事は、「現在取調べ中であり、取調べ及び留置手続が全て完了するまで接見を認めるわけにはいかない。最低でも数時間かかり、接見が開始可能な時刻も約束できない。」と返答した。
当職は、初回の接見が最高裁判所平成12年6月13日第三小法廷判決においても極めて重要とされているものであることから、「取調べの最中であることを理由に接見を待つつもりはない。」と告げると共に、○日午後11時までの接見を要請し、取調べの一時中断を求めたが、これは拒否された。なお、この電話での交渉時間は約10分ほどであった。
当職は、架電後、直ちに貴署へ向かい、○日午後○時○分ころ、貴署1階にて、接見を申し入れた。その際、当職は、対応した○○刑事に対し、口頭で、初回の接見が平成12年の最高裁判所判例上極めて重要である旨を再度説明し、接見を要請したが、「取調べ中である。」として拒否された。また、○日午後○時○分ころにも、接見申入書を提出すると共に、同様に口頭で説明した上で接見を要請したが、これも拒否された。この間、対応した○○刑事は、「弁護人の接見は被疑者の取調べが終わり、留置手続が完了するまでできない。」「取り調べ終了時間も分からない。」「留置手続も1時間以上かかることもある。」「接見可能な時刻が何時になるかは約束できない。」「取調べの一時中断は短時間であってもできない。現時点では、取調べを一時中断して接見時間を指定することも考えていない。」などとして、取調べを一時中断した上での弁護人の接見も含めいっさい拒否している。
そのため、当職は、貴署1階ロビーにおいて待つことを余儀なくされ、結果として○日中に接見をすることができなかった。
3 被疑者は、弁護人を呼ぶように自ら家族の○○氏に連絡をし、その結果、当職が弁護人となろうとする者として貴署を訪れているものであることから、被疑者本人が弁護人との接見を求めていることは明白である。
○○刑事は、「被疑者は任意に取調べを受けている」等とも述べたが、前記の経過からすれば、到底理由として成り立ち得ない。
初回の接見は、弁護人の選任を目的とし、かつ、捜査機関の取調べを受けるにあたっての助言を得るための最初の機会であって、極めて重要である。
前記最高裁判例も「即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能なときは、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続を終えた後、たとい比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認める措置を採るべき。」旨判示する。
当職が接見を要請したにもかかわらず、時間を指定した上での接見も含めていっさいの接見を拒否する特段の理由は存在しない。このような措置は、弁護人の接見を不可能とするものであって、被疑者の防御権を不当に侵害するものである。
以上より、このような○○刑事の措置は、被疑者と弁護人との間の接見交通権を侵害することは明らかであり、刑事訴訟法第39条に反し違法である。
よって、ここに厳重に抗議する。
申入書
上記被疑者の今後の取調べについて、その「全過程」をビデオ録画ないしテープ録音されるよう要求する。
刑事訴訟規則198条の4は、検察官に対し、取調べ状況の立証に関して、「できる限り……取調べ状況に関する資料を用いるなどして、迅速かつ的確な立証に努めなければならない」と定めている。このような立証のためには、本来、取調べと同時に客観的な資料が作成されなければならない。それには取調べの「全過程」をリアルタイムに録画・録音する方法による取調べの可視化を措いてない。取調べの可視化は、今や国際的に確立された被疑者取調べの規準というべきである。
なお、2006年7月から、検察庁は「(裁判員対象事件に関し、)検察官による被疑者の取調べのうち、自白の任意性の効果的・効率的な立証に必要かつ相当と判断される部分の録音・録画を試行する」としている。しかし、このような部分的な録画・録音では、任意性の適正な検証はできない。のみならず、録画・録音のない状態で違法不当な取調べが行われ、その影響下で虚偽自白がなされる場面が録画・録音される場合などを想定すると、それを任意性肯定の資料として用いることの弊害は極めて大きいといわなければならない。本件にあっては、検察官において、取調べ「全過程」を録画・録音され、併せ、司法警察職員に対し、その旨指揮されることをも求める次第である。
いずれにしても、本件について、「全過程」の可視化を履践しないままに作成された調書については、将来の公判で証拠請求されたとき、弁護人は、任意にされたものでない疑いがあると主張することとなる。予め御承知おき願いたい。
第1 捜査方針を見直すべきこと
(中略〜被疑者に対する刑事責任を問えない理由)
以上より、貴署において今後も捜査を継続されるのであれば、第一に被疑者の行為が罪となるか否かを慎重に検討されるよう申し入れる。
第2 今後の取調べは弁護人の立会を条件とすること
次に、貴署における取調べは、任意とは名ばかりの威圧的なものであり、被疑者が黙り込むと黙秘権の保障にも拘わらず「黙っとったら分からんだろう」と怒鳴りつけ、その他、被疑者の主張に取り合わず、意に沿わない調書へ署名押印させようと画策するなど、その取調べ状況は不当の一言に尽きる。
従って、今後、被疑者は、貴署の任意の事情聴取にはもちろん協力するし、逃げも隠れもしないが、単独で取調べに臨むことは拒否する。この旨、本申入書により通告する。
被疑者は、その取調べには、弁護人である当職が同席することを条件とする。もとより、任意捜査段階で被疑者が貴署に対し取調べ受忍義務を負う謂われはなく、それ故、Aは、その自由意思により取調べに立会人を要求する等し、これが容れられなければ取調べを拒否する権利がある。
被疑者が、以上のように当職の立会を条件とするため、仮に被疑者が爾後、単独で貴署の取調べを受けるような事態となった場合、そのような取調べは被疑者が貴署に強要されたものに他ならず任意性が否定されるべきものであるので、申し添える。
本職は、○○警察署に留置されている、上記被疑者の弁護人である。被疑者は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反により、平成○○年○月○○日夜から拘束されて、以後今日まで○○署において、取調べを受けているが、被疑者に対し違法な取調べが行われていることから、下記のとおり厳重に抗議する。
本件は、被疑者が被害者とされる女性にぶつかっただけであるにもかかわらず、女性がいきなり、金銭を要求し、被疑者がこれに応じなかったところ、通りかかった男性に突如痴漢だなどと叫び、これにより逮捕されたという冤罪事件である。
にもかかわらず、取調官は、被疑者に対し「認めないと、出らんないぞ。」「お前がやったんだからわかるだろう。」などと、違法・不当に脅迫、威圧し、自白することを強要している。
さらには弁護人との信頼関係を破壊しようと、「弁護士は金目的で、お前を長く拘束させようとしているんだ。」とか、「弁護士は金のことしか考えていない。」などと申し向けており、このような取調べは弁護人選任権の明白な侵害である。
以上のような取調べに対し、厳重に抗議し、即刻改善されるよう申し入れるものである。
なお、今後もかような取調べが続く場合には、国家賠償請求も辞さないものであることをご承知おきいただきたい。
被疑者を、代用刑事施設○○警察署から○○拘置所に移送する、との命令を求める。
第2 申立の理由
1 被疑者の身柄拘束状態について
被疑者は、平成○○年○月○日に逮捕されて○○警察署に身柄を置かれ、同○○日に同署に勾留された。その後、現在に至るまで、被疑者は同署において勾留されている。
2 被疑者に対する取調状況について
疎明資料1号証のとおり、被疑者は逮捕後、毎日休みなく、平均して9時間以上の取調べを受けている。その半数は取調べが午後11時に及んでいる。
その取調状況は威圧的且つ暴力的であり、濡れ衣を主張する被疑者に対し、「証拠はあるのだから自白しろ」、「自白しなければ余罪を立件して逮捕を永久に繰り返す」、「逮捕を認めた裁判所が無罪主張を相手にするはずがない」等と、言い分に耳を貸そうとせず自白を迫るだけの拷問の場と化している。
机や椅子を蹴る、叩くといった暴力は平常的に行われており、更に、握り拳を目の前に突きつけて直接の身体的暴行の素振りまで見せている。
3 移送の必要性
? 本件は、否認事件である。被疑者は、一切覚せい罪を扱ったことはないと一貫して述べている。
否認事件の取調においては、被疑者は様々な手段により自白を迫られるのであって、被疑者が耐えかねて虚偽自白に至る危険性は常に存在する。一旦虚偽自白がなされたなら、それを覆して冤罪を証明することは裁判上、至難であり、故に何よりも被疑者が虚偽自白のやむなきに至ることを防止する必要がある。
時間を問わず取調べに引き出され、再逮捕や暴行を示唆されるなどの脅しを受け、虚偽説明を受けて絶望感に苛まれるだけでも、被疑者の精神的負担は大きい。
この上、取調べがない時でも係が分かれるとは言え被疑者の立場から見れば同じ警察官である留置管理係の監視のもとで暮らさなければならない被疑者の現状は、とてもその精神状態を安静に保てる環境ではない。
そうすると、被疑者をこれ以上代用刑事施設に勾留することは、第一に冤罪の危険性を高めること、第二に威圧的且つ暴力的な取調べという人権侵害状態に晒し続けることの2点に於いて、違法である。
? 更に、被疑者は、疎明資料2号証のとおり、心臓の痛みと左腕の痺れを感じ、現在不眠状態にある。
当職は、○○警察署に対し度々被疑者を病院で受診させるよう申し入れたが、回答すら得られていない(疎明資料3号証の内容証明に対し、回答がない)。
かかる健康状態の悪化は、代用刑事施設での威圧的且つ暴力的な取調べに起因すると推察され、そのことからも移送は必要である。
4 捜査上、その他の弊害がないこと
? 代用刑事施設は、飽くまで代用であり、勾留場所は本来的に拘置所である。
実務の現状では、拘置所の収容能力の問題から代用刑事施設の利用が原則化している感があるが、法的に逆であることは論を待たない。
代用刑事施設よりは拘置所の方が、まだしも取調時以外の日常生活を捜査機関から切り離されるという意味で人権保障に適っており、以上より、代用刑事施設から拘置所への移送について、法的あるいは人権的な問題はない(寧ろ、好ましい)。
? この点、捜査機関は代用刑事施設でなければ捜査が困難になると言うかも知れない。
しかし、そもそも移送が捜査に弊害を多くはもたらさないことは明らかである。
第一に、取調べ自体は捜査の必要性の根拠とならないし、拘置所には取調室が専用に設けられているから、仮に取調べを捜査の必要性の一事由とするにしても、取調べに支障はない。
また第二に、例えば被疑者立会の実況見分を想定すると、被疑者を拘置所から連れ出すのに時間がかかるという捜査機関の主張は屡々見られる。しかし、本件現場は、寧ろ○○警察署より拘置所に近く、現場への引きあたりを言うなら却って拘置所の方が時間節約になる。また、この事情を抜きにしても、わずかな時間短縮と、拘置所が原則的な勾留場所であることや被疑者の置かれた違法状態とを比較するなら、考慮するに値しない弊害である。要するに、「被疑者が代用刑事施設にいれば便利である」という事情に過ぎず、勾留場所を例外的に代用刑事施設にしなければならないほどの弊害はないのである。
5 まとめ
被疑者を○○拘置所に移監させることにより、威圧的且つ何時終わるとも知れない取調は大幅に減少し、被疑者が意に反する供述を余儀なくされることは少なくなるであろう。また、少なくとも現在よりは被疑者の受診希望も真摯に対応して貰えるであろう。
かかる観点からすると、移送が必要的である。
更に、移送をしたところで、害される捜査の必要性は取るに足りないものであり、抽象的にしか観念できない。
第3 結語
以上の通りであるから、被疑者の人権を慮り、速やかに申立の趣旨記載の移送命令を下されるよう、申し立てる。
第1 申立の趣旨
被告人を、代用刑事施設警視庁○○警察署から、○○拘置所に移送されるよう申し入れる。
第2 申立の理由
上記被告人は、平成○○年○月○日に起訴されたが、未だに代用刑事施設(○○警察署)に勾留されている状態である。刑事訴訟法や国際人権諸法によれば、代用刑事施設は例外とされているところ、被告人を速やかに東京拘置所に移送されるよう求める。
本件においては、第1回公判はまだ迎えていないが、既に捜査を終了している。
本件は、公判前整理手続見込事件であり、被告人と十分な打ち合わせをするためにも、速やかに東京拘置所に移送されることを、申し立てる次第である。
上記被疑者に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、平成○○年○月○日、警視庁公安部司法警察員○○○○が、東京都○○区○○町○丁目○○番地○○号において、被疑者○○○○に対してなした捜索押収処分並びにその前提となった捜索差押許可状の発付について不服があるので、下記の通り、準抗告を申し立てる。
第1 申立の趣旨
1 被疑者○○○○に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、平成○○年○月○日、警視庁公安部司法警察員○○○○が、東京都○○区○○町○丁目○○番地○○号において、被疑者○○○○に対してなした別紙押収品目録交付書記載の物件に対する差押を取り消す
2 1記載の捜索差押処分の根拠となった捜索差押許可状の発付を取り消す
3 警視庁公安部司法警察員○○○○は、別紙押収品目録交付書記載の物件を、直ちに被疑者○○に返還せよ
との決定を求める。
第2 申立の理由
1 本件捜索差押の経緯(略)
2 本件令状発付ならびにその執行の違法性(略)
? 嫌疑が認められないこと
? 違法な逮捕手続に基づくものであること
? 被疑事実と捜索差押え物件との間には関連性がないこと
第1条 甲は乙に対し、次の事件等の処理を委任し、乙はこれを受任する。
1 被疑者・被告人・少年(氏名) の
(事件名) 被疑・被告・保護 事件
2 委任の範囲
第2条 乙は弁護士法に則り、誠実に委任事務の処理にあたるものとする。
第3条 甲は乙に対し、乙の所属する○○○○法律事務所が予め定める報酬基準に従い、後記の着手金、報酬金、日当・実費等を次のとおり支払うものとする。
1 着手金は本契約締結のとき
2 日当・訴訟費用等委任事務処理に要する実費等は乙が請求したとき
3 報酬金は事件等の処理が終了したとき(成功の程度に応じて)
第4条 甲が着手金または委任事務処理に要する実費等の支払いを遅滞したときは、乙は事件等に着手せずまたはその処理を中止することができる。
第5条 委任契約に基づく事件等の処理が、解任、辞任または委任事務の継続不能により、中途で終了したときは、乙は、甲と協議の上、委任事務処理の程度に応じて、受領済みの弁護士報酬の全部もしくは一部を返還し、または弁護士報酬の全部もしくは一部を請求するものとする。
第6条 事件終了時に乙が甲に対して返還すべき預り金を有していた場合、乙は、甲が乙に対して支払うべき第3条に定める金員を控除して交付することができる。
第2 意見の理由
1 前科前歴等について
被疑者には、前科前歴は全くない。
本件によって、初めて逮捕され、身体拘束を経験したものである。
2 被害者に対する謝罪等
被疑者は、本件について深く反省し、被害者に対して謝罪と損害の賠償をする意思があり、この点、被害者の実母も同じ思いである。
3 実質的制裁を受けていること
被疑者は、上記のとおり、初めて逮捕され、平成○○年○月○日の深夜から翌々日まで○○警察署において身体拘束を受け続けている。
かかる身体拘束により、被疑者は、すでに十分な実質的制裁を受けているものである。
4 罪証隠滅や逃亡のおそれがないこと
被疑者は、大学卒業と同時に大手企業である○○○○会社に勤務している。
また、被疑者は、住居地で、実母、姉と同居の上長年生活してきた。
かかる実母が、被疑者の身元を引き受け、被疑者の指導監督と捜査機関への出頭等を約束するものである。
以上のとおり、被疑者には、しっかりとした定職があり生活自体極めて安定しているほか、実母による十分な指導監督がなされるものであって、家族らに於いても被疑者の出頭の確保に協力し、あるいは罪証隠滅などの事態に至らないよう十分に注意することを誓約している(疎明資料:母○○の誓約書参照)。
これに対し、本件処分はどんなに悪くても罰金刑が相当であって、かかる罪を逃れるために、罪証隠滅や逃亡するなどという主観的な動機がないことは明らかである。
以上からすれば、罪証隠滅や逃亡のおそれは全くない。
5 勾留の必要性もないこと
前述のとおり、被疑者の身元はしっかりしている上、身元の引き受け環境も十分に整っている。
また、本件処分はどんなに悪くても罰金刑が相当であって、あえて被疑者を勾留してまで捜査を行う必要性はなく、在宅捜査で十分だと言えるものである。
これに対して、本件で勾留されることで被疑者は勤め先を欠勤して解雇される危険性が極めて高い。
以上からは、勾留の必要性は認められない。
6 結語
以上の各事情からは、本件について、被疑者に対して、勾留請求をすることなく、在宅で捜査されるべきである。
第1 勾留理由の不存在
1 罪を犯したと疑うに足る相当な理由の不存在
本件被疑者は○○線内において、29歳の女性の臀部や陰部をなで回したといった被疑事実に問われている。
しかし、被疑者は当該女性がどこから乗車したのかすら認識していない。ただ、明確ではないものの、いつからか、満員の電車であったために、自己の前の女性の臀部に自己の右手の甲の側、親指と人差し指の間あたりが触れるようになったことは認識していたというのみである。
被疑者は、右手を臀部に触れないように動かすことは逆に不自然になると考え、しばしその状態が続いた様であるが、意識して故意に自分から臀部に触れたわけでもない。
他方、仮に被害者とされる女性の臀部等を、被疑者が長期間の間、なで回していたというのであれば、周りには多くの乗客がいたのであるから、誰かしら気づかないはずがない。
しかるに、本件には目撃者もいないと考えられる。被疑事実が存在したとするにはあまりに不自然である。
むしろ、被疑者が述べる通り、偶然に被疑者の右手の甲の側と女性の臀部が触れる状態になったと考えるのが自然であるし、事実と言える。
そもそも、被疑者は定職を持ち、3人の娘を育ててきた定年間近の男性である。勿論、前科もないのであり、痴漢行為を行うような動機を生じたり衝動に駆られるようなことがあったとは考えがたい。
してみれば、被疑者に罪を犯したと疑うに足りる相当な理由は何ら見受けられない。
2 定まった住所の存在すること
被疑者は、妻及び次女○○と自宅(次女の携帯電話番号○○○-○○○○-○○○○)において居住しており、定まった住所を有している。
3 罪証隠滅をすると疑うに足りる相当の理由の不存在
被疑者は無実であり、それ故、当然の事ながら罪証隠滅を図る必要性もない(主観的意図の不存在)。
それを前提に更に付け加えるに、被疑者は被害者とされる女性の個人情報は何ら把握していない。しかも、被疑者は既にその両手の指に繊維が付着していないか鑑定するために、自己の両手にテープ様のものを貼り付ける捜査に協力している。
そして、捜査機関が女性の当時着用していた衣類等から繊維を取得することは容易である。
してみれば、客観的に被疑者が罪証隠滅を図ることなど、そもそも出来ないのである。よって、罪証隠滅をすると疑うに足りる「相当の理由」など存在しない。
4 逃亡すると疑うに足りる相当の理由の不存在
被疑者は、電車内で女性に右手を捕まれ、駅員に声をかけられた後、自ら誤解を解くべく駅員に従い移動している。自分がいつ逮捕されたのかも認識していない位、協力的に対応していた。
そして、捜査機関に対しても、自らの体験した事実を隠さず語っているのであって、このように捜査に協力している被疑者が逃亡を図ることは考えられない。
また、被疑者はしっかりとした定職についており、家族もいる。被疑者の次女からは速やかに身元引受書も取得できる予定である。何より、被疑者の妻は、軽度の認知症(要介護認定1級)に罹患している状態であり、そのような妻をおいて、逃亡を図るはずがない。
以上のことからすると、逃亡すると疑うに足りる「相当の理由」など、存在しないのは明らかである。
第2 勾留の必要性の不存在
上記の通り、被疑者には軽度認知症の妻がいる。被疑者の妻は家事を担当してくれてはいるが、料理をしていることも忘れてしまうような状態である。この点、被疑者の次女が本年春から同居してくれてはいるものの、その次女も働きに出ているため、被疑者が不在のままでは被疑者の妻の看護に大きな支障を来すのみならず、生命身体の安全面でも大きな問題が生じることとなる。
また、被疑者は本年4月から○○にて製造技術関係の指導をする仕事を開始しているが、同会の実働者は5名であるところ、技術指導を行うことが出来るのは被疑者のみであり、被疑者の身体拘束によって、同会も多大な損害を被ることとなる。
これらの回復しがたい損害を生じさせることは、有罪、無罪の議論を離れ、本件のそもそもの法定刑に比してみても、あまりに過酷と言わざるを得ず、不当である。
在宅であっても捜査は十分にできるのであるから、本件勾留請求を却下することにより、在宅捜査に切り替えるよう希望する次第である。
第2 申立の理由
1 はじめに
本件において検察官は、刑訴法60条1項2号、3号にあたることを理由として被疑者に対する勾留を請求している。
しかし、以下の通り、被疑者は同法60条1項2号、3号にあたらず本件検察官の勾留請求は却下されなければならない。
2 事実関係
本件は、平成○○年○月○日、被疑者が、一人で通勤途中、朝の通勤時での混み合う○○線の電車内で被害者に痴漢行為をしたとして、降りた駅の駅員に現行犯逮捕され、勾留請求を受けているものである。
3 罪証隠滅を疑う相当の理由はない(同法60条1項2号)
? 本件犯行は、朝の通勤時で混み合う○○線の電車内で行われた痴漢行為であり、被疑者と被害者とは、全く面識がなく、被疑者においてかかる被害者に対して連絡手段はもちろん、連絡先を知る手がかりすら全くない。
従って、被疑者が、上記被害者に対して威迫等はもちろん、連絡を取ることすら不可能である。
? 上記のとおり本件犯行は、混み合う電車内で行われた痴漢行為であって、その証拠としては、被疑者の他、上記被害者による供述や犯行再現、実況見分等に限られる。
これら各書証は、すべて捜査機関の管理下にあって、被疑者がこれを隠滅する術はない。
? さらには、被疑者は一人で通勤途中であったのであり、口裏を合わせる等の共犯者や関係者は存在しない。
? 被疑者は、自己の犯罪を深く反省し、深い反省と被害者に対する謝罪の気持ちから、本件での逮捕当初より事実をありのまま供述し、被害者の供述どおりに、全面的に事実を認め、その旨の調書が作成済みである。
さらに、本件では被疑者の供述のみならず、逮捕直後に、被疑者自身の犯行再現として写真撮影が行われており、客観的な証拠も既に存在するものである。
現段階において、被疑者が供述を覆して犯行を否認するなど、主観的可能性がないほか、既に、客観的にも不可能なことと言える。
また、被疑者は、被害者に与えた損害の大きさと自己の罪の大きさに思いを致して、弁護人に対し、被害者への謝罪の手紙を託すものである。
さらに、被疑者は、被害者に連絡を取ったり接触したりは一切しない旨の誓約書、本件で処分が決まるまでの間は通勤に○○線を使用しない旨の誓約書等を作成するものである。
他方で、被疑者には前科前歴はなく本件は全くの初犯であるであることのほか、上記のとおりの被疑者の反省と被害者への謝罪の念、強い絆で結ばれた家族があって社会復帰後の環境が整っていること等からすれば、略式命令ないし起訴猶予が十分見込まれ、公判請求されたとしても少なくとも執行猶予が付されることは明らかであると言える。
かかる見込みからは、証人威迫等して更に罪を重ねて捜査、訴追を受ける危険を冒してまで罪証隠滅を行って少しでも自己の罪を軽くしようとすることに合理性は全くなく、本件処分の見込みからも、被疑者に罪証隠滅の動機がないことは明らかである。
以上からすれば、被疑者において罪証隠滅の可能性は、主観的にも全くないことは明白である。
? 従って、罪証隠滅を疑う相当な理由はないのであって、本件において被疑者は同法60条1項2号に該当しない。
4 逃亡を疑う相当な理由はない(同法60条1項3号)
? 前述のとおり、被疑者は、強い絆で結ばれ家族生活を送ってきたものであって、被疑者家族は住居地において妻と2人で生活するものである。
そして、被疑者家族の生活は被疑者が働いて得る収入に依るものである。
この点、被疑者には、社会人になって以来、現在まで一貫して○○業界で勤務し続けてきたのであって、身体解放後は直ちに職場復帰するものである。
仮に被疑者が逃亡したとすれば、被疑者自身が職を失い、そして被疑者家族は経済的な危機に瀕することになる。
以上からすると、被疑者において、長年働いてきた○○業の仕事先を捨て、さらには家族を見捨てて逃亡するなど考えられないことである。
? また、被疑者の妻が、被疑者と都内の住居地での同居を続け、被疑者を厳重に監督したうえで身元を引き受けるものであり、隣県に住む被疑者の母も、同じく、被疑者を厳重に監督したうえで身元を引き受けるものである。
以上のように、被疑者の身元引き受け環境も十二分に整っている。
? 前述の通り、被疑者は本件について深く反省し、被害者に対して謝罪するものであり、自己の刑罰はこれを当然としてこれに服する意思である。
被疑者において、逃亡する主観的な可能性はない。
本件は、略式命令ないし起訴猶予が十分見込まれ、公判請求されたとしても少なくとも執行猶予が付される見込みであって、そもそも、被疑者において逃亡する動機がない。
? 従って、逃亡を疑う相当な理由はないのであって、本件において被疑者は同法60条1項3号に該当しない。
5 勾留の必要性もないこと
? 前述の通り、本件の事案からは、なされる捜査としては、被疑者の他、被害者による供述や犯行再現、実況見分等に限られるものと言える。
また、処分としても略式命令ないし起訴猶予が十分見込まれ、公判請求されたとしても少なくとも執行猶予が付される見込みである。
他方で、被疑者の身元引き受け環境は整っている上、定職を有するものである。
そして、被疑者自身としても深い反省と自責、謝罪の念から捜査に全面的に協力する意思である。
以上からすれば、被疑者に対する捜査としては、在宅で十分足りるのであって、勾留してまで捜査を行う必要性はない。
? これに対して、本件10日間の勾留により被疑者は勤め先を欠勤し続け、解雇される可能性が極めて高い。
被疑者は、永年勤めてきた○○業における仕事先を解雇され定職を失うことになる。
本件勾留により、被疑者のみならず何らの責任のない被疑者家族の生活まで困窮することになるのである。
さらには、被疑者の仕事先においても、被疑者が立ち上げて進めている仕事につき、被疑者を不可欠として必要とするものである。以上からは、一日も早く被疑者の身体拘束が解かれる必要性が極めて高い。
? 従って、本件において、そもそも被疑者を勾留する必要は到底認められない。
6 結語
以上より、本件検察官による被疑者に対する勾留請求は却下されなければならない。
第2 請求の理由
1 はじめに
被告人は、平成○○年○月○日の午後3時20分ころ、○○店(以下「被害店舗」という。)から焼酎他2点を窃取したとの疑いから、逮捕・勾留され○月○日起訴されたものである。
被告人は、捜査段階において、東京地方裁判所裁判官○○○○によって、刑訴法60条1項2・3号の要件があるとして、勾留の決定を受け、起訴後もその勾留を継続しているものであるが、被告人には以下のとおり、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」も「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」ももはや存在せず、勾留の必要性もなくなったため、勾留を取り消すべきである。
2 「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の消失
勾留は人の身体の自由を奪い、刑罰と同じ苦痛を与えるものであるから、勾留の要件は厳格に解するべきものであり、刑訴法60条1項2号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」とは、単に抽象的・一般的な可能性であってはならず、具体的な事実に基礎づけられた蓋然性でなければならない。
すなわち、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が認められるためには、@罪証隠滅の対象となる証拠が具体的・客観的に存在すること、A被告人が罪証隠滅行為を行うことが客観的・現実的に可能であること、B罪証隠滅行為が被疑者にとって実効性のあること、C被告人が証拠を隠滅する意思を持っていることが具体的事実に基づいて推測されることなどが必要である。そのように限定的に解釈しなければ、およそ全ての被告人に「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が認められてしまい、身体拘束を最小限に止めようと刑事訴訟法が勾留について要件をおいている意味が失われてしまう。
本件では、被告人は、最初の窃盗行為から継続して、被害店舗の保安員に監視されており、被害店舗から自己の持っていた紙袋にいれて同店から外へと出たところを声をかけられ、現行犯逮捕に至ったものである。そして、盗み出した品物は、その場で押収されている。
本件は、万引きの現行犯逮捕事案であり、最初の行為から被害店舗の保安員が被告人を監視尾行していたもので、目撃者、被害者の調書はすでに作成済みで、被害品もその場で押収され、被害店舗に還付されている。
被告人は、逮捕前から素直に事実を認め、すでに公判を維持するに十分な調書は作成済みである。
そして、被告人は弁護人を通じて被害店舗と示談交渉中であり、罪証隠滅、証人威迫の意思は全くない。
さらに、○月○日付で起訴をされ、すでに捜査は終了している。
もとより、被告人は、公判廷ですべて事実を認める予定であるのだから、隠滅すべき証拠は、検察庁が保持しているものであり、およそ不可能である。
以上によれば、被告人には隠滅する罪証自体ないし、その意思も全くない。
よって、罪証隠滅の現実的可能性も意思もなく、その実効性もないのであるから、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」は存在しない。
3 「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」はない。
前項と同じく、「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」についても、単に抽象的・一般的可能性であってはならず、具体的な事実に基礎づけられた蓋然性でなければならない。
被告人は、妻と、子ども二人と同居しており、娘はすでに働いているが、当然被告人が家族を養わなければならない。
被告人は、本件で、勤務先を退職することになり、いち早く社会復帰して、就職し、家族の生活を守らなければならない。
被告人自身事実をすべて認めているのであるから、執行猶予が相当な本件事案において、逃亡するなどという危険を冒すはずはない。
また、被告人の母親やその妻は、被告人が釈放された場合には、被告人の身元を引き受け、捜査機関や裁判所への出頭を確保し、責任を持って指導・監督していくつもりである。
以上の諸事情に鑑みれば、本件のような法定刑が低く、前科のない被告人にとっては実刑の可能性が乏しい犯罪の嫌疑をかけられているからといって、自らの仕事や家族、住居を捨ててまで逃亡する危険を冒すとはおよそ考えられない。
4 勾留の必要性はない。
まず、被告人の精神や肉体は極度に疲労し、弁護人との接見でも憔悴しきった顔を隠せずにいる。
さらに、肝機能障害と糖尿病によって、以前の仕事を辞めざるを得なくなったものであり、現在では症状は緩和したものの、薬を飲み続けなければならない状況にある。これ以上の勾留は、その症状を悪化させかねない。また、精神的にも、うつ病との診断を受けて現在通院中であり、長らく環境の悪い留置場に勾留され続けることによって、抑うつ的精神状態の悪化も心配されるところである。現に、仕事に対するやる気のなさや自殺についての話などを弁護人に対してもしているような状況である。
以上の理由から、このまま被告人の身体拘束が続くようであれば、その家族ともども経済的に困窮するばかりか、肉体的・精神的にも多大な苦痛を蒙ることとなり、その不利益は取り返しのつかないものである。
また、本件において、被害品はすべて還付されており、被告人には前科前歴もない。そうすると、被告人がすべてを認め、養うべき家族がいる本件では執行猶予が相当の事案である。
勾留が続けば、判決まで1カ月以上身体を拘束されることになるが、被告人のした行為に対する人身の自由の制約としてはあまりに不均衡である。
5 まとめ
以上述べたように、本件被告人については、捜査を終了し起訴され、公判でも事実を認める予定である本件においては、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」や「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」及び勾留の必要性は存在しない。
よって、被告人には勾留の理由も必要性もないのであるから、勾留は取り消されるべきである。
さらに、被告人の母とその妻が、被告人の身元を引き受け、その生活等を監督する旨誓約しているので、同人らの身元引受書の写しを添付する。
第1 はじめに
被疑者に対する勾留の裁判の後、取調官は、黙秘権を行使して供述拒否の意思を明らかに示している被疑者を連日取調室に呼び出して執拗に尋問を繰り返したため、被疑者に対する勾留は、勾留の必要性が失われるに至った。
すなわち、勾留は、あくまで逃亡及び罪証隠滅の防止を目的とする制度であり、被疑者の取調べを目的とする制度ではないのであるから、取調官が、黙秘権を行使して供述拒否の意思を明らかに示している被疑者を連日取調室に呼び出して執拗に尋問を繰り返すなど、被疑者の黙秘権侵害、自白の強要という重大な不利益・弊害を生じる蓋然性が極めて高い事態が生じた場合には、勾留継続により実現されるべき利益よりも、勾留継続により生ずべき不利益・弊害の重大さが上回るならば、勾留はその必要性を欠くに至るのである(岡山地決昭44年9月5日判時588号107頁参照)。
本件の具体的経過は、次のとおりである。
第2 本件の具体的経過
1 勾留決定日である平成○○年○月○日、午後○時ころから午後○時ころまで警察官らによる被疑者取調べがなされたが、その内容は、勾留決定前と同様に、被疑事実との関連性の定かでない放火事件への被疑者の関与如何に終始したため、被疑者は、弁護人からのアドバイスに従って、あらゆる事実について黙秘権を行使した。
すると、取調べに当たった警察官らは「黙秘すればお前の刑は重くなるし、お前の彼女も逮捕しなければならないことになる。」などと被疑者に告げて、放火事件についての自白を迫った。
2 翌○月○日は、午前9時30分より12時まで警察官らによる取調べがなされたが、取調官は、放火事件によって亡くなられた方のことを持ち出して、「被害者に対して申し訳ないという気持ちはないのか。自分の権利ばかり主張して被害者の権利はどうでもいいのか。もし、お前の彼女が殺されて、犯人が黙秘したらどういう気持ちになるか。」「お前の弁護士は、マスコミに出て有名になりたいだけで、お前のことなんて何も考えていない。お前の家族は、みな、お前に本当のことを話して貰いたいと言っている。あんな弁護士の言うことを聞いたって、刑が重くなるだけだ。」などと被疑者に告げて、黙秘権の行使をやめて放火事件について自白するよう迫った。
3 同日午後7時40分から同9時15分まで検察官による取調べがなされたが、検察官は、黙秘を貫こうとする被疑者に対し、あくまで被疑事実について聞きたいと前置きした上でのことではあるけれども、「黙秘していては自分のためにならない。起訴されてからそのことに気付いて、後になって泣きながら認めた奴を見てきた。無料で仕事をする弁護士などいるはずがない、弁護士の目的は他にあるのだ。今からでも遅くはないから、今の弁護士を解任して、別の弁護士をつけて、黙秘するのはやめたらどうだ。」などと、警察官による黙秘権侵害を追認するかのような法律家にあるまじき不当な言動に終始した。
4 翌○月○日(本日)には、午前9時40分ころから昼食を挟んで午後2時20分ころまで警察官による取調べがなされたが、取調官は、被疑者の目前に顔を近づけて繰り返し「言え!話せ!」と大声を上げ、被疑者の態度が変わらないとみるや、お茶の入ったプラスチック製のコップを壁にぶつけるなどして被疑者を威嚇して黙秘権の放棄を迫り、さらに、「これからもずっとこれが続くぞ。覚悟しておけ。」などと被疑者を威嚇した。
この日には、被疑者が嫌疑をかけられていると思われる放火事件と同種の手口による放火の疑いのある不審火が続いている旨が広く報道されたが、捜査官の態度が変わることはなかった。
第3 もともと勾留の必要性の乏しい事案であること
本件被疑事実は、「被疑者は、……ものである。」というのである。
事案自体軽微である上、当該事実を証する証拠として、警察官○○の供述調書、目撃者らの供述調書等が存在することは明らかであり、かつ、被疑者がこれらの者に接触することは相当困難であることもまた明らかである。
しかるに、本件の捜査が上記のような経緯を辿り、被疑者に対して自白を求める働きかけが執拗になされているという事態は、全く理解しがたいと言わざるを得ない。
第4 身元引受人のあること
被疑者の両親は、被疑者が釈放された場合の出頭確保を約束する旨の身元引受書を作成している。
捜査官が放火事件について被疑者の自白を執拗に迫っていることは、被疑者が身体を拘束されているにもかかわらず、被疑者と放火事件との結びつきが何ら見いだされないことの裏返しである。被疑者の両親の生活状況や、被疑者との関係を踏まえれば、公務執行妨害事件についての捜査は被疑者在宅のまま行っても十分というべきである。
第5 結語
叙上の各点に徴すれば、捜査機関の目的は、もっぱら被疑者の身体拘束を利用して、自白を強要するにあることは明白であり、本件勾留は、もっぱら取調べのための勾留に転化していることは明らかである。
もともと、本件逮捕・勾留は、本命の放火事件の取調べを目的とした別件逮捕・勾留であることは、当初から明白だったのである。現に取調官は、放火したのが被疑者であることを前提として、連日被疑者を追及している。
このように制度趣旨を完全に逸脱した本件勾留は、その必要性をまったく欠くものである。速やかに勾留を取り消されたい。
第1 被疑事実の不存在
1 被疑者は、平成○○年○月○日の午後0時30分頃ころ、JR○○線○○駅から同○○駅の間を走行中の急行電車内において、被害者とされる女性(以下、「本件女性」という。)に対し、同女の後方から自らの膝の部分を押しつけ、嫌がっているところを強引に同女の右手をつかみ自らの股間付近に押しつけるなどし、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反として、逮捕・勾留されたものである。
しかし、被疑者は、上記のような行為を行っておらず、全くの無実である。彼は、逮捕当初から一貫して被疑事実を否認している。
被疑者は当時、重さ約2.5キログラムの鞄を右手に持っていたものであって、その右手で、本件女性の手をつかんで無理矢理自らの股間付近に押しつけるということはおよそ不可能である。
また、同じ方向を向いていた女性の右手を被疑者の股間付近に押しつけるには女性が右手を後ろに回さなければならない。しかしながら、被疑者は女性の左後ろに位置しており、股間付近に女性の手を持ってくることは身体的に不可能である。
被疑者は、女性の左腕にかけていた鞄が自己の下腹付近にあたったと供述しており、このことは被疑者が女性の左後ろに立っていたことを裏付けている。
さらに、股間をこすりつけるのも、被疑者が片足をあげなければならず、揺れる電車内でそのようなことをすることは、極めて不自然である。
また、被疑者は身長182センチメートルで、女性は160センチメートルほどであって、この身長差から、後ろに回した女性の右手を被疑者の股間付近に押しつけるとした場合、女性の右手は上方向にかなり持ち上げなければならず、いわば関節技を決めるようなもので、そのようなことをして、女性が我慢できるはずはない。
そもそも、本件電車内は混んでいたとはいえ、通勤ラッシュではないのであって、左右の乗客は被疑者と女性が当然に見える状況下である。そのような中で、膝を押しつけ、股間に手を持ってくるなどという大胆で大きい動きをするなどは到底できたことではない。
確かに、被疑者は女性に痴漢だと言われて、逃亡しているが、昨今痴漢冤罪がマスコミでも取り上げられ、女性が痴漢だと言うだけで、逮捕勾留されている現状は誰しも知るところである。
とすれば、何もしていないという認識である人が、関わりたくないと逃亡することは何ら不自然ではない。おそらく私でも逃げるだろう。
2 被疑者は、○○大学を卒業後、株式会社○○に採用となり、今日に至るまで無遅刻無欠勤で、何らの問題を起こすことなく、同社に勤務していたものである。その性格は温厚で、仕事に対しても真摯に取り組む姿勢を見せており、職場の同僚にも信頼が厚かった。
被疑者が逮捕されたことが会社に知れると、職場の者は声をそろえて、彼がそんなことするはずはないと不当逮捕であることを疑わない。
3 本件のような痴漢事件については、無罪判決も数多く出ており、いわゆる「痴漢冤罪」として社会問題化していることは、今や周知の事実である。
このような事態においては、往々にして捜査機関が、「女性」の供述を鵜呑みにし、十分な証拠もないのに被疑者を逮捕・勾留し、認めれば罰金で済むと脅迫し、更に起訴までに至るという一連の流れがある。これが、「痴漢冤罪」の事案に共通して見られる現象である。
被疑者とされた者は、痴漢として逮捕されたというだけで職場を辞めざるを得ないことが多く、実名報道によって「有罪の推定」を受けるなどして極めて過酷な社会的不利益を受けるほか、長期間の勾留によって、肉体的・精神的に甚大なる苦痛を受けることになるのであって、身体を拘束するには、よほど慎重にならなければならない。
4 被疑者が私人に逮捕されたとき、女性は笑っていたとのことで、このことは逮捕段階から一貫して供述しており、勾留質問においてもその旨述べている。このことは、真に女性が痴漢にあって恐怖を覚えたことと相容れず、女性に何らかの意図があったと考えざるを得ない。少なくとも女性の供述のみによって、身体を拘束することは、極めて危険である。
第2 「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の不存在
勾留は人の身体の自由を奪い、刑罰と同じ苦痛を与えるものであるから、勾留の要件は厳格に解するべきものであり、刑訴法60条1項2号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」とは、単に抽象的・一般的な可能性であってはならず、具体的な事実に基礎づけられた蓋然性でなければならない。すなわち、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が認められるためには、罪証隠滅の対象となる証拠が具体的・客観的に存在すること、被疑者が罪証隠滅行為を行うことが客観的・現実的に可能であること、罪証隠滅行為が被疑者にとって実効性のあること、被疑者が証拠を隠滅する意思を持っていることが具体的事実に基づいて推測されることなどが必要である。そのように限定的に解釈しなければ、およそ全ての被疑者に「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が認められてしまい、身体拘束を最小限に止めようとした憲法、刑事訴訟法の趣旨が失われてしまう。
まず、被疑者は、上記の様に無実であるから、そもそも「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の対象となる「罪証」が存在しないことは明らかである。
また、本件のような事案において、「罪証」があるとすれば、それは女性の供述と目撃者の供述くらいであろうが、たまたま電車に乗り合わせた者の所在などは当然知るよしもないのであって、被疑者は本件女性の住所を知らないし、目撃者については、その存在の有無すら知らないのである。
そして、被疑者の勤務先ではフレックス制を採用しており、決まった出社時間はなく、同じ電車でそれらの人間と乗り合わせるという可能性もない。
更に、捜査機関は、本件のような事案においては、女性、目撃者の住所や電話番号等を決して被疑者側には教えない。とすれば、被疑者としては、1000万人を超える東京の中で本件女性や目撃者を探し出すことは万が一にもできないのであって、同人らを威迫することなど不可能である。
また、仮に女性らを探しだし、威迫するようなことがあれば、そのこと自体をもって罪に問われるのであって、嫌疑をかけられることの不利益は身をもって実感しており、彼が現在の社会的立場、家族等を捨ててそのようなことをするはずはない。
よって、罪証隠滅の客観的・主観的可能性もないのであるから、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」はない。
第3 勾留の必要性の不存在
被疑者は、前記の通り、定まった住所に住み、株式会社○○の社員として10年以上真面目に勤務し続けているものであって、交通前科以外には前科・前歴もなく、身元はしっかりしている。
しかし、このまま勾留が続き、欠勤が続くようであれば、同社を解雇されることにもなりかねない。
また、被疑者は、身に覚えのない嫌疑で生まれて初めて身体を拘束され、濡れ衣を着せられたまま、自己の主張を信じてもらえない厳しい取調べを連日に渡り受けており、その精神や肉体は極度に疲労し、弁護人との接見においても、憔悴しきった顔を隠せずにいる。
このまま被疑者の身体拘束が続くようであれば、被疑者は社会的な地位を失い、経済的に困窮するばかりか、肉体的・精神的にも多大な苦痛を蒙ることとなるのであって、その不利益は極めて甚大である。
一方で、捜査機関は、被疑者を拘束し続けなくとも、在宅捜査で十分に捜査の目的を達することができるのであって、敢えて被疑者を勾留し続ける必要性はない。
また、逃亡を疑うに足りる相当な理由は全くない。
そもそも、被疑者は本件に関して無実であり、捜査機関及び裁判所に対して供述し続けることによって、自己の潔白をはらそうと考えているのであるから、逃亡しようなどとは考えない。
捜査機関への出頭の確保に関しては、被疑者の両親と結婚を前提とした交際相手とが、被疑者の身元を引き受け、捜査機関や裁判所への出頭を確保する旨誓約している。
以上の諸事情に鑑みれば、本件のような法定刑が低い犯罪の嫌疑をかけられているからといって、自らの仕事や家族、交際相手を捨ててまで逃亡するとはおよそ考えられない。
にもかかわらず、捜査機関が、客観的に十分な証拠がなく、公判維持のためには被疑者の自白が必須であると考え、何とか被疑者の自白をとろうという目的の為に勾留を利用するというのであれば、そのような勾留が許されないことは、云うまでもない。
そして、本件で被疑者を勾留することは、自白を強要することだけを目的としていることは明らかである。
現に、捜査機関は執拗に認めれば罰金で済む、自白しろなどと脅迫的な取調べを繰り返しており、弁護人はかような違法な取調べを即刻止めるよう申し入れているところである。
第4 結論
以上述べたように、被疑者は本件について無実であり、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」も存在しない。
もし、被疑者が否認をしていることのみをもって「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」を認めるとすれば、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が存在するか否かについての具体的・客観的な判断を回避することとなり、判断権者としての裁判官の職責を放棄するものであって、職務怠慢とのそしりを免れないばかりか、身体の自由を制限し続けることによって虚偽の自白を引き出すといういわゆる「人質司法」を援護する行為となり、新たな冤罪を生むことにもなりうる。
また、仮に捜査機関として、今後捜査が必要と考えるのだとしても、考え得るのは、女性、目撃者の取調べ、実況見分くらいであろうが、いずれも被疑者を勾留しなければできない捜査ではない。
被疑者は、捜査機関の呼出しにはいつでも応じるつもりであり、同人の両親や交際相手も出頭確保を申し述べており、在宅のままで十分に行えるものである。にもかかわらず、被疑者を拘束し続ければ、それによって生じる不利益はあまり大きい。
よって、被疑者には相当の嫌疑もなく、勾留の理由も必要性もないのであるから、この勾留は違法不当なものであり、即刻取り消されるべきである。
第2 申立の理由
1 原裁判の存在と憲法違反
原裁判は、本件事案において、被疑者には、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑訴法60条1項柱書)がある、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(同条1項2号)がある、勾留の必要性があるとして準抗告を棄却した。
しかし、以下に述べるとおり、原裁判の決定は、憲法34条後段、同38条1項に反するものであるから、直ちに破棄されなければならない。
2 憲法34条後段違反(「正当な理由」なく勾留を認めたこと)
? はじめに
原裁判は、各勾留要件を基礎付ける具体的な事実は認められないのに被疑者の拘禁を正当化するものであって、憲法34条後段の「正当な理由」によらずに被疑者を拘禁するものである。
従って、原裁判は、憲法34条後段に違反する。
? 憲法34条後段の「正当な理由」の意義
憲法34条後段は、身体を拘束する要件につき、「相当の理由」よりも高度な立証を要求する概念である「正当な理由」(adequate cause)を採用した。憲法34条は、国家の側に、より高いハードルを課して、個人が不幸にも国家刑罰権の対象とされて嫌疑をうけても、身体の拘束については必要最小限にとどめようとの配慮を示している。
このように人身の自由の制約に対する抑制的な憲法の姿勢は、国際人権法の身体不拘束の原則と一致している。国際人権(自由権)規約9条3項は、逮捕・抑留された者が司法機関の面前に速やかに引致されるべきこと等を保障した上、「裁判に付される者を抑留することが原則であってはなら」ないと明示し、ヨーロッパ人権規約5条3項、米州人権条約7条5項、国連被拘禁者保護原則38及び39も同様の権利保障を定めているのである。
これらの国際人権法が明らかにしているのは、被告人が刑事手続を遂行する上で、拘束されることは例外的な場合でなければならないということである。
そうすると、憲法34条後段の「正当な理由」とは、個人の自由を拘束する必要性が認められる「十分な根拠」(adequate cause)という意味である。
逃亡の防止の他、被疑者による証拠隠滅行為の防止を未決拘禁の目的とすることを肯定するとしても、具体的に被疑者拘禁をするためには、被疑者がこれらの行為に走ると考える「十分な根拠」がなければならないのである。単に、被疑者は「逃げるかもしれない」とか「被害者に働きかけるかもしれない」というだけでは足りないことは言うまでもない。憲法の要請を満たしたといえるためには、被疑者がこれらの行為をすることを示唆する具体的な事実が証明されなければならないだろう。それは公判手続における有罪の証明と同じ程度の高度の証明(合理的な疑いを越える証明)までは必要ないとしても、個人の自由の拘束という重大な結果をもたらす事実である以上、民事裁判における証明の程度(証拠の優越)では足りないであろう。
この点で参考になるのが、アメリカ合衆国の未決拘禁の基準である。
1984年連邦保釈改革法(The Federal Bail Reform Act of 1984)によると、公判前の拘禁をするためには、粗暴犯や死刑事件で起訴された場合であっても、訴追側は、被告人が「いかなる条件を設定しても被告人の出頭又は他人や地域の安全を合理的に確保することができない」ことが「明白かつ説得的な証拠」(clear
and convincing evidence)によって証明されない限り、被告人は当然に釈放されるのである。
被疑者の拘禁に「正当な理由」=「十分な根拠」を要求する日本国憲法のもとにおいて、少なくとも、この基準よりも低い基準で未決拘禁がなされて良いと考える理由はない。
? 「十分な根拠」(「正当な理由」(憲法34条後段))がないこと
ア 「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」について
@ はじめに
原裁判は、単に、一件記録によれば、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認められるとし、何らの根拠を示すものではない。
本件において被疑者は本件女性に単にぶつかってしまっただけで、全くの無実である。かかる無実を訴える被疑者供述には高度の信用性が認められる。
これに対して、本件において、被疑者が罪を犯したとする唯一の証拠は被害者とされる本件女性の供述のみであると言えるところ、かかる供述に信用性は全くない。
A 被疑者供述の信用性
? 被疑者は、当初より一貫して単にぶつかっただけである旨を供述するものである。そして、その内容は、具体的で詳細な内容であり、自然かつ合理的である。
? 次に、被疑者は、本件において初めて逮捕勾留という身体拘束を受け、最愛の家族と引き離されたうえ、起床、食事、入浴、就寝の他、生活全般にわたって一挙手一投足が厳しく制限される過酷な生活を強いられている。
さらには、長年勤めてきた会社を欠勤し続けることになって定職を失う危険にさらされている。
他方、本件によって見込まれる処分は、本件が条例違反の軽微な事案であること、被疑者には前科前歴がないこと等からすれば、被疑者が犯行を認めれば、十分に起訴猶予が認められ悪くても罰金刑が課せられるにとどまるものである。
すなわち、被疑者は、本件犯行を否認することにより、刑罰よりも遙かに厳しい実質的な制裁と家族らの生活の危機にさらされているのである。
かかる利益状況にもかかわらず、被疑者が本件被疑事実を否認するのは、被疑者が無実であるからに他ならない。
? 以上のとおり、被疑者の供述はこれを疑う余地がない。
B 本件女性の供述の信用性
? 本件勾留の起訴とされた被疑事実は、本件女性の供述に依拠しているものといえる。
しかし、かかる本件女性の供述には全く信用性がない。
? すなわち、本件女性は、当時、足下もおぼつかないほど酒に酔っていたものである。
さらには、本件女性は、本件において直ちに被疑者に金員の支払いを要求しており、被疑者を犯人に仕立て上げて被疑者から示談金等の金員を不法に得ようとしているものであることが強く推認される。
? 以上のような本件女性の供述には、到底信用性が認められない。
C 被疑者の行動、態度
? 本件において、被疑者の方から、女性に一緒に駅員室へ行くように言い、さらに通りがかりの第三者の男性に一緒に駅員室まで行ってくれるように頼んでいる。
被疑者が、真に本件被疑事実の犯行を犯したのであれば、わざわざ自ら進んで駅員や警察に身の潔白を訴えるようなことをするはずがない。
? 特に本件においては、いくらでも逃げる機会はあったものである。
すなわち、本件の現場は電車内等ではなくて改札の外であった。また、男性対女性で身体的な面でも被疑者の方が本件女性に勝っていたものといえる。その上、被疑者と本件女性は互いに全く面識がなかった。
したがって、本件当初より、被疑者は、逃げようと思えばいくらでも容易に逃げられたものであり、かつ、逃げてしまえば被疑者を捕まえる手がかりは事実上なかったものである。
? 本件において、被疑者は、全くの潔白で逃げも隠れもする必要がなかったからこそ、前述のとおり自ら駅員室へ行ったものであって、被疑者の無実は、その行動、態度からも明らかである。
D 結語
以上のとおり、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」は到底認めることはできない。
イ 「罪証隠滅をすると疑う相当な理由」について
@ 原判決は、一般的抽象的な可能性から「罪証隠滅をすると疑う相当な理由」を認めるものにすぎないであって、何らの根拠に基づくものではない。
A 本件における主要な証拠は、被疑者、本件女性、および駅員室まで一緒に行く等した第三者の男性らの供述に尽きるものといえる。
この点、被疑者と本件女性および第三者の男性とは、全く面識がなく、被疑者において、かかる本件女性および第三者の男性らに対して連絡手段はもちろん、連絡先を知る手がかりすら全くない。
さらには、被疑者は、本件女性と一切接触しないこと、加えて接触する可能性すら排すべく、本件の現場である駅を通勤では使用せず別の通勤経路を使うことを誓約するものである。
もとより、被疑者は、全くの一般人であり、暴力団等の組織的背景等は皆無である。
B さらに、本件事案において処分は有罪となっても罰金刑である。
懲役刑が求刑され執行猶予が付されるか否かの事案とは異なり情状事実は重視されないのであって、原裁判が指摘する「重要な情状事実について」罪証隠滅を行おうとする動機は一般的にも認められない。
逆に、本件女性や本件第三者の男性を威迫等することは、別途証人威迫、脅迫等の罪で訴追され懲役刑を受け、本件事案の罰金刑より遙かに重い制裁をうける危険がある。
加えて、本件被疑者は、刑罰よりも遙かに厳しい実質的な制裁を受け、最愛の家族らが生活の危機にさらされながらも身の潔白を明らかにしようと固く決意するものであるところ、本件女性や本件第三者の男性を威迫等することは、自身の有罪を認める結果となるものである。
被疑者において、罪証隠滅等の可能性は皆無というべきである。
C 以上にもかかわらず、本件において、「罪証隠滅をすると疑う相当な理由」を認める裁判は、全ての事案において言いうる一般的抽象的可能性を論じるものに過ぎないのであって、何らの根拠に基づくものではなく、「罪証隠滅をすると疑う相当な理由」は到底認められない。
ウ 勾留の必要性について
@ 原判決は、勾留の必要性についても、一般的抽象的な可能性からこれを認めるものにすぎないであって、何らの根拠に基づくものではない。
A すなわち、まず、原裁判も認めるとおり、被疑者において逃亡のおそれはない。
この点、被疑者家族は、強い絆で結ばれ家族生活を送ってきたのであり、被疑者は住居地において家族4人で生活している。さらに、妻のおなかには、被疑者の3人目の子となる妊娠4カ月の赤ちゃんがいる。
妻は、妊娠4か月の身重である上、子ども2人が○歳と○歳で子育てにたいへん手がかかることから働くことはできない。
被疑者家族の生活は、すべて被疑者が働いて得る収入に依拠しているのである。
また、住居地のマンションは、被疑者が購入したものでまだローンの返済が約○○○○万円も残っている。
これに対して、被疑者は、大学卒業以来、現在の勤務先に約○○年も勤務し続けてきたのであって、定職を有する。
仮に被疑者が逃亡したとすれば、被疑者自身が長年勤めてきた勤め先を失うのみならず、被疑者家族においても収入を失い、被疑者家族は経済的な危機に瀕し、住居すら失う危険がある。
にもかかわらず、被疑者において、長年の仕事先を捨て、さらには自身の生活の全てとも言うべき最愛の家族を見捨ててまで逃亡するなどは到底考えられない。
また、被疑者の妻が、被疑者と同居を続け、被疑者の身元を引き受けるものである。
さらに、被疑者の義父も被疑者の身元を引き受ける。
被疑者の身元引き受け環境も十二分に整っているのである。
そして、被疑者は、前述のとおり無実であり、全くの潔白で逃げも隠れもする必要がない。
この点、被疑者自身、罪証隠滅の他、逃亡しないこと、捜査や裁判には全面的に協力することを誓約するものである。
被疑者は、本件において自己の潔白を明らかにすることを強く決意しており、逃亡することは自ら本件被疑事実を認めることになって、被疑者の決意に全く反するものである。
被疑者において、逃亡する主観的可能性は全くない。
さらに、前述のとおり、本件における被疑者の行動、態度からも、被疑者に逃亡等の主観的意図がないことは明らかである。
以上のとおり、被疑者において、逃亡のおそれは全くない。
B 次に、被疑者は、逮捕当初より一貫して詳細な供述をするものであり、かつ、すでに別紙のとおりの本件当時の状況を具体的かつ詳細に供述する供述調書も作成済みであって、かかる供述を翻すことなど考えられない。
被疑者は、本件において自己の潔白を明らかにすることを強く決意しているところ、かかる本件当時の具体的で詳細な供述を変遷させることは、自ら本件被疑事実を認めるに等しい。
このため、被疑者に対する捜査としては、在宅で十分に達せられるものである。
C 本件において、前述のとおり、被疑者に罪証隠滅や逃亡のおそれは全くない。
にもかかわらず、被疑者に対して勾留をすることの目的は、勾留によって被疑者に刑罰よりも遙かに厳しい実質的な制裁を課し、かつ最愛の家族らの生活を危機にさらすことで、虚偽自白を獲得することに尽きる。
かかる本件勾留は、決して許されない。
D 以上にもかかわらず、勾留の必要性があることを認める裁判は、何らの根拠に基づくものではない。
? 結語
したがって、原裁判は、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」、勾留の必要性が認められないのに本件勾留を許し、「正当な理由」(憲法34条後段)なく勾留を認めたものであって、憲法34条後段に違反する。
3 憲法38条1項違反(黙秘権侵害)
? はじめに
前述のとおり、被疑者には勾留要件が全く存在せず、当然、勾留(逮捕も含む)の必要性も全くない。
それにもかかわらず、被疑者を勾留するとの判断は、自白を強要するための身体拘束にほかならず、黙秘権(憲法38条1項)を侵害するものとして憲法38条1項に違反するものである。
? 本件勾留が自白獲得のためのものであること
本件被疑事実のごとき、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反の事案においては、被疑者のように前科前歴がなく長年にわたり○○業に勤務している等の身上関係からは、被疑事実を認めれば身体拘束されず在宅で捜査がされるのが通常である。
にもかかわらず、被疑者に対して本件勾留がされたのは、被疑者が本件被疑事実を否認しているからに他ならない。
そして、本件勾留によって、被疑者は、刑罰よりも遙かに厳しい実質的な制裁を課せられ、かつ最愛の家族らの生活が危機にさらされながら、取調べを連日受ける結果となるのであって、本件勾留の目的が自白獲得に尽きることは明らかである。
? 現に自白を強要されていること
実際にも、被疑者は、逮捕当初の取り調べから、取調官により「認めないと、出らんないぞ。」「お前がやったんだからわかるだろう。」などと、本件勾留を利用され、違法に脅迫、威圧されて、自白することを強要されている。
さらに、平成○○年○月○日における取り調べにおいて、取調官は、否認する被疑者に対して、弁護人との信頼関係を破壊しようと「弁護士は金目的で、お前を長く拘束させようとしているんだ。」、「弁護士は金のことしか考えていない」などと申し向けたうえ、執拗に自白することを強要し続けている。
本件において、被疑者はまさに本件勾留を利用され、自白の強要を受けているものである。
? 結語
以上にもかかわらず、本件勾留を認める原裁判は、被疑者に虚偽自白を強要するものであり、黙秘権(憲法38条1項)を侵害するものとして憲法38条1項に違反する。
5 職権破棄事由
? はじめに
原裁判は、重大な事実の誤認により、原裁判を破棄しなければ著しく正義に反すると認める事由の存在するのであって、破棄を免れない。
? 各勾留要件を根拠づける事実の誤認
前述のとおり、本件において、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑訴法60条1項柱書)、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(同条1項2号)、勾留の必要性を根拠づける事実は全くない。
にもかかわらず、原裁判は、これらをいずれも認めるものであって、重大な事実誤認が認められる。
? 結語
したがって、重大な事実の誤認があって、破棄しなければ著しく正義に反すると認められ、破棄を免れない。
6 結論
以上より、原裁判は直ちに取り消され、被疑者は一刻も早く釈放されなければならない。
第2 嫌疑の相当性がないこと
そもそも、被疑者に対する勾留状別紙に記載された被疑事実は存在せず、故に嫌疑の相当性がないから、被疑者に対する勾留決定は違法である。
1 本件被疑事実は、○○郵便局において他人のカードを使用して預金を窃取しようとしたというものである。
しかし、被疑者が行為当時、○○郵便局に自己の預金を引き出す目的で赴いたことが明らかであれば、構成要件的故意において嫌疑の相当性が否定されることになる。
2 この点、被疑者が行為当時、○○郵便局に自己の預金を引き出す目的で赴いたことを示す次の3点を指摘することが出来る。
@ 被疑者が、上記使用行為直前、妻○○とメールのやりとりをし、自己の郵便貯金口座への金員の振り込みを依頼していたこと(疎弁1号証の1〜3)、妻○○の振り込み前、被疑者の上記口座には預金が殆ど無かったこと(疎弁2号証)、被疑者は自動預払機の操作において自己の暗証番号を入力していること(疎弁3号証)。
A 被疑者の使用にかかる被害者のカードが紛失した時期(疎弁4号証)と、被疑者の本件使用行為とには時間的隔たりが大きいこと。
B 被疑者は何ら前科前歴がなく、特に財産的に困窮していたような事情もなく(疎弁4号証)、危険を冒してまで窃盗に及ぶ動機がそもそも見当たらないこと。
3 以上から考察するに、被疑者が○○郵便局に自己の預金を引き出す目的で赴いたことを否定するのは困難である。
被疑者が、被害者の預金を引き出そうとして○○郵便局に赴いたのであれば、妻○○に振り込み依頼をする必要はなく(偽装工作と見るのは余りにうがちすぎである)、疎弁1号証の1〜3の説明に窮する。
また、何より、他人の預金を引き出すのに自己の暗証番号を入力することは不可解である。
更に、他人の預金を引き出すのであれば、亡失届けが出るより先に、つまり出来るだけ早く実行に移すものであろうが、本件では、被害者のカードが紛失した後(なお、被疑者は被害者の上司であり、紛失の事実を被害者より聞いていることについて、疎弁4号証)、使用行為までに4週間が経過しており、防失届けが提出される可能性を考えれば不正使用は考えづらい暴挙である。
故に、被疑者が○○郵便局に、被害者の貯金を下ろす目的で赴いたとすることは説明出来ない。
4 以上より、構成要件的故意において嫌疑の相当性が否定されるべきは当然である。
よって、被疑者の勾留を認めた勾留裁判は違法であり、取り消されなければならない。
第3 勾留の理由がないこと
また、本件では、刑訴法60条1項各号要件が何れも存在しておらず、よって被疑者に対する勾留を認めた本件決定は違法である。
1 1号要件
被疑者に定まった住居があることは明らかである。
2 2号要件
上記で引用した疎弁1号証の1〜3は、その性質上被疑者に絶対的に有利であり、且つ、弾劾不可能のものである。
そうすると、被疑者は、自己の無罪を立証するために既に必要十分な活動を終えており、故に罪証隠滅をする必要性がそもそもない。
更に被疑者は、事件に関連しそうな資料の隠滅行為に及ばないことを誓約し、且つこれを実効的に監督する旨の妻○○の誓約もある(疎弁5号証、同6号証)。
よって、罪証隠滅のおそれは存在しない。
3 3号要件
被疑者には一定の社会的地位があるとともに、無職の妻○○及び1歳の長男○○を守る義務がある。故に、被疑者に逃亡のおそれはないと言うべきである。
更に、これを監督する旨の妻○○の誓約も存在する(疎弁6号証)。
よって、逃亡のおそれは存在しない。
4 小括
以上より、本件では刑訴法60条1項各号要件が何れも存在せず、本件決定は違法であるから、取り消されるべきである。
第2 請求の理由
1 即決裁判手続に付されていること
本件は即決裁判手続に付する決定がなされている。すなわち2週間弱後の○月○日に行われる公判において、被告人に執行猶予判決が下されることは確実である。
かような状態において、被告人に対して身体拘束という多大な不利益を与え、勾留を継続する必要性は乏しいと言わざるを得ない。
2 罪証隠滅を疑うに足りる相当の理由がないこと
本件において、被告人は犯行当初から被疑事実を認め、その旨自白した供述調書も作成されている。
また覚せい剤自己使用事件にとって決定的かつ客観的な証拠である尿についても既に採取され鑑定書が作成されている。
このような状況において被告人が罪証隠滅を疑うに足りる相当の理由は存在しない。
3 逃亡すると疑うに足りる相当の理由がないこと
被告人は定職を持ち、また妻と子ども2人の家庭を持つ人間である。また被告人の反省の情は顕著である。このような被告人の生活環境やその内面の状況からすれば被告人が本件のために逃亡することは想定しがたい。
さらに本件事案の軽微性や先に述べたとおり即決裁判手続に付されており執行猶予判決が確実であることからしても、被告人が逃亡する可能性は皆無と言うべきである。
4 以上より、被告人を身体拘束の負担からより早期に解放することを目的の一つとした即決裁判手続の趣旨からしても被告人の勾留は直ちに取り消されるべきである。
第2 申立の理由
1 はじめに
? 被疑者は、被疑者ほか5名による取り込み詐欺の被疑事実で、平成○○年○月○日逮捕され、同月○日勾留決定を受けるとともに本件の原裁判により「被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」(原裁判)として接見等禁止決定を受けたものである。
? しかしながら、後述するように、被疑者には罪証を隠滅する具体的危険性は全くなく、接見等禁止を付さなければならない相当の理由がないのであって、原裁判は取り消されなければならない。
? 仮に、被疑者に接見等禁止を付すとしても、事件に全く関与しておらず罪証隠滅に荷担する可能性がなく、接見の必要性がある後記の内妻との間でまで、一律に禁止する必要性、許容性は全くない。
少なくともかかる者との間の接見等を禁止した部分は取り消されるべきである。
2 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由の不存在
? はじめに
「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」(刑訴法81条)とは、「被疑者が拘禁されていても、なお罪証を隠滅すると疑うに足りる相当強度の具体的事由が存する場合でなければならない」(京都地裁昭和43年6月14日決定・判例時報527号90頁等)と解されるところ、本件においてかかる事由は認められない。
? 事実上接見等による罪証隠滅が不可能であること
そもそも被疑者が拘禁されていること自体により、事実上、一般人との接見等による罪証隠滅は不可能であるというべきである。
すなわち、被疑者と一般人との文書の授受はすべて警察署・拘置所において検閲される。
また、被疑者と一般人の接見は、警察署職員などの立会いの下に行われ会話内容を記録等されるのであり、また、接見時間を短時間に区切られた上、会話の内容自体も極めて限定されている。
したがって、被疑者が、一般人と文書の授受や接見を行うことで、罪証の隠滅を図ろうとしても、実際には不可能というべきである。
? 対象となる証拠がないこと
また、本件において罪証隠滅の対象となる証拠自体ないと言うべきである。
すなわち、被疑者は、平成○○年○月○日、逮捕されて以来、被疑者に対する各種捜査が行われ、被疑者自身、反省と自責の念から事実をありのまま供述し、多数の詳細な自白調書が作成されている。
さらに、被疑者に先行して、主犯格である○○○○が、平成○○年○月○日ころ逮捕勾留され、同日、被疑者らが利用していた株式会社○○○○(以下、「本件会社」という。)の事務所は捜索差押えを受けたのをはじめとして、主犯格である○○○○に対する各種捜査が完了している。
被疑者については、十分に容疑が固まった上で通常逮捕がなされており、被疑者宅の捜索差押えも既に終了していて、残す捜査は被疑者自身に対する取調べのみであるといえる。
そして、上記捜査で収集された各種証拠のすべては捜査機関の管理下にあるのであって、被疑者においてこれらを隠滅する術はない。
従って、罪証隠滅の対象となる証拠自体ないと言うべきである。
? 共犯者間の口裏合わせ等も不可能であること
本件において、今現在、前述の通り被疑者のほか5名全員について勾留されており、かつ、被疑者とほか5名とは別の警察署等に勾留されている。
また、本件において被疑者らに暴力団などの組織的背景は全くない。
このため、被疑者と共犯者間で直接に通謀するなどは不可能である。
少なくとも、共犯者間の通謀による罪証隠滅に対しては、共犯者間での接見等禁止を付せば足りる。
? 内妻による罪証隠滅のおそれもないこと
念のため付言すれば、被疑者は、住所地で内妻である○○○○と生活していたものであるが、本件について捜査の中で、上記内妻が本件事件と何らの関係がないことは明らかである。
したがって、上記内妻は、全くの一般市民であってかかる内妻が罪証隠滅をする等のおそれも認められない。
? 主観的可能性もないこと
前述の通り、被疑者は、逮捕当初より、深い反省と自責の念から事実をありのまま供述し、多数の詳細な自白調書が作成されている。
この点、特に、平成○○年○月○日に本件会社が捜索され、かつ主犯格である○○○○が先行して逮捕された。
このため、被疑者自身、逃げようと思えばいくらでも時間と機会があったところ、住民票の住居地で生活を続け、平成○○年○月○日に検察からの出頭要請に任意に応じて検察庁で通常逮捕されたのであって、深い反省の念から捜査に全面的に協力してきたものである。
以上からは、被疑者に自己の罪を逃れようなどとして罪証隠滅をする意図など全くないことは明らかであり、罪証隠滅の主観的可能性もない。
? 結語
以上からすれば、被疑者については、現在勾留を受けていることで既に罪証隠滅のおそれはないものといえる。
被疑者が拘禁されていても、なお罪証を隠滅すると疑うに足りる相当強度の具体的事由などは全く見あたらず、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法81条)は認められない。
3 家族などとの接見等の必要性
? これに対して、被疑者が家族などと自由に接見する必要性は高い。
そもそも、起訴後勾留の目的は、逃亡防止による被疑者の裁判出頭の確保と罪証隠滅の防止にある。
そして、接見等禁止の目的も逃亡、罪証隠滅の防止に尽きるものであって、被疑者に刑罰等の制裁を科すことを目的とするものでないことは言うまでもない。
しかし、実際には、勾留により行動の自由という基本的な自由を奪われた上、接見等禁止によってさらに自己の家族等と話などする自由までも奪われるものであって、被疑者に対する実質的な制裁は甚だしいものがある。
被疑者が自己の家族等と話をすることは、被疑者が人として生きていく上で基本的、かつ重要なものであることは明白であって、最低限、被疑者が人として生きていく上で、家族等と自由に接見することを認める必要性が高いことは明らかである。
? また、被疑者は、刑事公判廷において検察官に対する一方当事者として十分な防御活動が保障されなければならない。
しかし、接見等禁止によって、弁護人が本来は公判の防御活動の準備のためである接見の際に、併せて被疑者家族等との日常生活上の連絡もしなければならない事態となり、被疑者の防御活動を圧迫することになる。
? 以上の通り、被疑者において、人として最低限の権利としても、一方当事者としての防御活動としても、被疑者が家族などと自由に接見する必要性は極めて高いというべきである。
4 結論
? 以上から、本件において、原裁判は取り消された上、検察官の被疑者に対する接見等禁止請求を却下されなければならない。
? 仮に接見禁止が付されるとしても、少なくとも下記の者については、接見禁止を付した原裁判は不当であるから、原裁判を取消し、下記の者を除いて接見禁止を付されなければならない。
第1 被疑者は平成○○年○月○○日、東京都○○区○○の路上において、○○○○氏(以下、「○○氏」という。)に対して果物ナイフを所持して恫喝したとの被疑事実によって、逮捕され、翌々日である同○日に勾留の必要性なしということで釈放された。
前記被疑事実につき誤りはない。
第2 しかしながら、被疑者及び当該犯行については以下のような諸事情が認められるのであって、その処分については不起訴処分が相当である。
1 犯行事実について
本件は、交通トラブルに端を発した喧嘩事案である。すなわち、T字路を横断していた被疑者及び小学生たちの列の脇を、○○氏の運転する車がスピードを出して通り過ぎたことから始まったものである。そして○○氏も車外に出て被疑者に対して威圧的に詰め寄るといった行為をしているのであり、被疑者に一方的な落度があるものではない。
もちろん被疑者がこのような些細な喧嘩に対して、果物ナイフを持ち出すといった危険な行為に及んだことは責められてしかるべきである。しかしながら、被疑者は○○氏を傷つける意図で持ち出したわけではなく、○○氏が身長185センチ近くの極めて良い体格をしていることから、単に虚勢を張るためにナイフを持ち出したに過ぎない。またこのナイフについても、普段果物等をむくために被疑者の事務所に常備されていたものであり、被疑者が犯罪に供するために持ち歩いていたものではない。本件当時このナイフは同○日にあった被疑者の誕生日のケーキを切るために事務員がたまたま机の上に置いてあったもので、被疑者はとっさにそれを掴んでしまったのであって、ナイフを探して持ち出したというようなものでもない。
さらに被疑者はナイフを持ち出した後も、その刃先を○○氏に向けることはなく、順手で刃先を下に向けたままにしていた。そして○○氏が謝罪の言葉を口にすると、被疑者は何もしないで踵を返して事務所に戻っているのである。
上記のような事実関係からすれば、被疑者の行為は喧嘩の延長線上のものであり、本件犯行が直ちに被疑者の反社会性・遵法意識の欠如を示すものとは言えない。
2 被害が慰謝されていること
本件犯行に対する被害は、既に十分に慰謝されている。
本件において、被疑者は○○氏やその車に触れてはおらず、○○氏に実損は損じていない。しかしながら、被疑者は身体拘束中から○○氏に対する被害弁償を弁護人に指示し、会社の従業員にそのための資金の捻出も指示していた。そして、被疑者は釈放となった翌日には○○氏に対して謝罪と弁償を済ませ、○○氏からは示談書だけでなく寛大な処分を望むという上申書も得ている。
被疑者が○○氏に対して支払った示談金は、このような事案のいわゆる相場よりも相当額高いものであった。これは、既に提出済みの示談に関する経過報告書のとおり、被疑者が心からの謝罪の意味をこめて、できるだけ早い時期に○○氏に対する慰謝を行ないたいという被疑者の強い意向を受けてのものである。
上記のように被害感情が解消されているという点は、被疑者の処分に対して十分に考慮されるべきである。
3 被疑者が十分に反省していること
既に提出済みの陳述書のとおり、被疑者は本件犯行を心から反省している。
被疑者はこれまで50年間、貧しく過酷な家庭環境を克服し、親を養うために、真面目に仕事一筋に生きてきた人間であり、前科・前歴も存在しない。
そしてその必死で積み上げてきたもの全てが、本件のような浅薄で軽はずみな行動により全て崩れさってしまうことを、被疑者は本件で十分過ぎるほど痛感している。陳述書のとおり、被疑者の被害者や周囲の人間に多大な迷惑をかけたことに対する反省態度は非常に真摯なものであり、被疑者の再犯可能性は皆無である。
4 監督環境も整っていること
前述したように被疑者の再犯可能性は皆無であると弁護人は考えるが、被疑者の今後の監督環境も整っている。被疑者とともに貧しい中から肩を寄せ合って支え合ってきた兄姉であり、被疑者の自宅に通い会社の経理を担当している姉○○が被疑者の監督を行なうことを約束している(上申書)。
第3 以上の諸事情によれば、被疑者に対してはあえて起訴をするまでもなく今後の更生を十分に期待できる。被疑者は既に被害弁償として通常よりも相当高額を被害者に支払っているのであり、罰金等の負担とともに前科の不利益を課す必要はない。
本件犯行の結果、被疑者の反省等を考えれば、不起訴処分に付するのが相当である。
第2 申立の理由
1 はじめに
? 原裁判は、刑訴法208条2項により被疑者につき勾留延長を認めている。
しかし、刑事訴訟法は勾留期間を原則として10日間と定めているのであるから、捜査機関は、原則として10日間の捜査によって起訴・不起訴を決定するか、そうでなければその後は身体拘束を解いて在宅で捜査を進める義務がある。
従って、勾留延長が許されるためには、10日間の勾留満期の時点で起訴・不起訴を決定することができず、かつ、そのことに合理的理由があり、しかもその後の補充捜査が被疑者の身体を拘束しなければ実行できない捜査である場合に限られる。
判例も、「やむを得ない事由」(同法208条2項)とは、「事件の複雑困難、あるいは証拠収集の遅延ないし困難等により勾留期間を延長して更に取調べをするのでなければ、起訴・不起訴の決定をすることが困難な場合」(最高裁昭和37年7月3日判決、民集16巻7号1408頁)であるとしており、単に、漫然と捜査の必要があるだけで勾留延長することは決して許されないのである。
しかし、被疑者には以下のとおり勾留を延長する「やむを得ない事由」(同法208条2項)は全くなく、勾留延長は認められない。
? そもそも、本件勾留は別件勾留であって、勾留自体が違法であり認められない。
? 従って、原判決は直ちに取り消されなければならない。
2 事実関係
本件は、平成○○年○月○日、被害者とされる者に対して補修工事請負契約を締結して、直ちに特定商取引に関する法律(以下、「特商法」という。)施行規則で定める役務提供者の氏名又は名称、住所及び電話番号等を記載した書面(以下、「特商法5条書面」という。)を交付しなかったという特商法違反の被疑事実で、被疑者は上記日より1年以上経過した平成○○年○月○日に通常逮捕された。
そして、その後に10日間の勾留をされ、さらに原裁判により10日間の勾留延長を受けているものである。
3 必要な捜査が終了していること
? 本件被疑事実は、特商法5条書面を交付しなかったという単純な事実であり、かかる被疑事実の存否を明らかにする立証、証拠収集は極めて単純であり容易といえる。
また、法定刑も100万円以下の罰金と、比較的、軽微な犯罪である。
? これに対して、被疑者は、本件より1年以上経過した平成○○年○月○日に通常逮捕された。
捜査の端緒は被害者とされる者の被害届であるといえるところ、かかる被害届提出から捜査に必要な十分な時間が経過し、すでに被害者、関係者に対する取調べ、実況見分、捜索差押等の各種捜査が終了し、残すは被疑者に対する捜査のみであったといえる。
さらには、被疑者が逮捕されてから原裁判で10日間の勾留を受け、11日間もの被疑者に対する捜査の時間があった。
そして、被疑者も、逮捕当初より事実をありのまま供述し、全面的に捜査に協力してきた。
このため、被疑事実についての被疑者に対する捜査はすでに終了し、最終処分を決めるのは十分に可能である。
? むしろ逆に、被疑者に対する被疑事実についての取調べは早々と終了し、取調べ当初より被害者とされる者に対してリフォーム詐欺を行ったのではないかという別件を中心に行われているものである。
もはや、本件被疑事実についての捜査の必要は全くなく、仮になお、被疑者に対する勾留を続けて捜査をする必要があるというのであれば、別件捜査のために漫然と捜査が行われたのであって、勾留を延長する「やむを得ない事由」(刑訴法208条2項)は認められない。
4 違法な別件勾留であること
? 前述のとおり、本件勾留の被疑事実は、特商法5条書面を交付しなかったという単純な事実であり、また、法定刑も100万円以下の罰金と比較的、軽微な犯罪である。
見込まれる刑事処分の軽微さからは、そもそも勾留自体が不必要と言える。
? にもかかわらず、被疑者は、勾留され、さらにもう10日間も勾留延長された上で、被疑者は取調べの当初より詐欺を行った否かを取り調べ続けられている。
本件勾留、及び勾留延長の目的は、別件である詐欺について被疑者の意に反し、かつ客観的事実に反する自白を獲得することに尽きるものであることは明らかである。
? 本件勾留、及び勾留延長は、令状主義を潜脱した違法な別件勾留であり、また黙秘権を侵害するものであって、そもそも認められない。
5 結論
? 従って、現時点にお